目覚めと鍵


「ん……」



 目を覚ます。

 いつの間に寝たっけ、今は何時だっけ。そんなことを思いながら、スマホを見る。体育祭の翌日だから今日は学園は休みだ。けど、あまりにもだらだらと眠り続ければ生活リズムも壊れるし、朝に起きられてよかった。



 ゴミを出しておかないと……。そんなことを思いながら、一つの事に気づいてはっとなる。



 あれ、昨日、俺は花音が家にいる状態で眠ったじゃないか。花音はそう言えばどうしたのだろうか、帰る時に起こすようにと言って眠った気がするが……。寝ぼけた頭で、ソファから起き上がる。ベッドではなく、ソファで眠ってしまったから、少しだけ体が硬い。変な寝方をしてしまっただろうか、そう思いながら肩を回す。




 それから俺は自分の部屋の扉を開けて、目に入った光景を見て、俺は思わず扉を閉めてしまった。

 そして、先ほど見たものは見間違いだろうか……と思いながらもう一度部屋を覗き込む。

 そうすれば先ほどのは見間違いではなかったみたいで、俺のベッドにはすやすやと眠る花音がいた。



 ……何で花音が俺のベッドで眠っているんだろうか。勝手に帰ったのかと思っていたのだが……と驚いてしまう。花音が以前に泊った時は花音が眠っていた時と、凛久さんと花音が同時に泊った時だけだし……。何で花音は俺の部屋で眠っているのか。俺がよっぽど声をかけても起きなかったのだろうか。



「花音」

「ううん……」



 花音は俺が声をかけても起きる気配がない。本当にぐっすり眠ってしまっているようだ。毎回思うが、花音は異性の家にいながら警戒心がなさすぎる。



「花音……」

「ん……まだ、おきんよ」

「花音!!」

「なん、いいよーと」



 起きる気配が全くない。……いいか、仕方がない。とりあえず朝食の準備だけしよう。米も炊いてないから、一先ず、米を炊こう。準備をして、炊飯スイッチを押す。

 あとは米が炊き上がったらウィンナーを焼いておこう。



 花音がいつ目が覚めるかは分からないが、花音の分も準備しておくべきだろう。

 ……なんだろう、凛久さんもいない状況で花音が俺の部屋で寝ているって、うーん、凛久さんに知られたら怒られる気がする。あと花音は客観的に見ても美少女なので、たまにドキリッとしてしまうし……。

 起きたら何で昨日帰らなかったのか聞いてみよう。




 そう思いながらしばらくスマホをいじる。





 そうしていれば、「きー君、おはようございます」と眠たそうな花音が起きてきた。



「花音、おはよう。昨日帰らなかったんだな。俺を起こしてくれてよかったのに」

「きー君、疲れているみたいでしたし。それに帰るにしても鍵を開けっぱなしにするのは問題かなって思って。それできー君のベッド借りて眠っちゃいました。勝手にお借りしてすみません」

「いや、別に一日ぐらい開けっ放しでも問題ないだろう。このマンションはセキュリティも良いし」

「いえ、駄目ですよ。その油断が命取りなんです! まぁ、私が以前住んでいた田舎だと鍵開けっ放しだったりもしましたけど……、都会はちゃんと鍵を閉めておかないと大変ですよ!! 人が多い分、何か起こるかもしれませんし。それに私もきー君の部屋のベッドで寝転がってみたいと思ってましたし」



 前半はともかく、後半は何で俺のベッドで寝転がりたいんだか……という気持ちになった。

 というか、そうか、俺が疲れているように見えたか起こさなかったらしい。

 それを聞いて、俺は引き出しに入れていた合鍵を一つ取り出す。



「花音、あれだったら、これ貸しておく。鍵があれば勝手に帰れるだろう」

「え、いいんですか!? わー、じゃあ今度からピンポンせずに勝手に入ってもいいんですか?」

「ああ。勝手に入っていて構わない」



 別に花音なら悪用をすることはないだろうしと思いながら鍵を花音に渡せば、花音は嬉しそうに微笑んだ。



「じゃあきー君、私ん家の合鍵も貸しますね!!」

「……は? いや、それは駄目だろ。そんなもの渡されたら勝手に俺が花音の家に入れるってことだぞ?」

「別にきー君なら構いません!! きー君は悪用なんてしないでしょ? 何かあった時のためですよ。あ、でもきー君が私の家に訪問したいっていうならどうぞ!!」

「本当に、警戒心がなさすぎるだろ」

「警戒心がないんじゃなくて、きー君のことを信用しているんですよ! それに私だけがきー君家の鍵持っていて、きー君が持っていないとか、そんなの対等って感じじゃなくて嫌ですもん」



 花音はそんな風に勢いよく言ったが、今は合鍵は持っていないから今度渡すとつづけた。……何だか花音の家の合鍵を持っているなんて落ち着かなくなりそうだから、このまま花音が合鍵を渡すのを忘れて、そのまま渡さないとかの方が俺はいいが。花音なら覚えていれば俺が断っても押し付けてきそうだし。



「あ、ご飯が炊けた匂いしますね!! 朝食食べましょう」



 ご飯が炊けた匂いを嗅いだ花音はそう言って、台所の方へと向かう。




 それから俺と花音は朝食を食べるのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る