終業式のあと

 今日は終業式である。



 これで二年生も終わる。的場先輩も卒業式を迎えた。的場先輩は大学の近くで一人暮らしをする準備をしているらしいと聞いた。



「きー君、一年終わったんやねー。来年から学年が一年揚がるなんて不思議やね」

「そうだな。不思議だな」



 俺もあと一年が経てば、高校を卒業して大学に上がるかと思うと不思議だ。その前に受験をなんとかしなければならない。勉強は花音や凛久さんに見てもらってしていて、成績も向上しているけれどちゃんと受験勉強はもっと頑張るべきだろう。下手に油断して、受験に失敗するのも嫌だしな。



「そういえばね、きー君、お兄ちゃんが的場先輩の一人暮らしする準備手伝っているみたいなんですよねー。的場先輩、もう少ししたら一人暮らしの家に引っ越すみたいだし」

「凛久さんが?」

「うん。男手があった方が色々楽だからって」



 終業式帰りに歩きながらそんな会話を交わす。



 やっぱり凛久さんと的場先輩は何だかんだ仲良しだよなぁと思う。あの二人って実際はどういう関係なのかはいまいち分からないけど、仲良くなっているのは確かだろう。




「なんだか春休みって、きー君と一緒に沢山いられるって思うとうれしかねー。付き合いだして初めての長期休みやもんね。えへへー、好きな人と一緒に過ごせるってよかよね」

「俺も花音と一緒に居られるの嬉しいよ」



 本当によく考えたら花音と付き合い始めてから初めての長期休みなんだよな。何だかんだ毎日一緒に過ごしているから花音と一日中一緒に居るように感じるけど俺と花音は学年が違うから日中は一緒じゃないしな。春休みはずっと土日と同じ感じなんだよな。



 朝に花音とおはようと挨拶して、朝食を食べて、昼食を食べて、夕飯を食べて――ずっと過ごす。うん、楽しそうだ。これがあまり相性が良くない相手だったらずっと一緒にいるのは心地悪かったかもしれないけれど、花音とならずっと一緒に居たいなとそう思えるし。



 花音と一緒に過ごせる春休みは本当に楽しみだ。




「春休みの間にきー君の百合さんたちに会えるの楽しみやわー。きー君と一緒に食事の時の服も買えたしさー。めっちゃ楽しみなんだよね。なんかきー君の両親に会えるときー君とのつながりがもっと深まると思うと楽しみやし。あ、そうだ、きー君、今日なんたべたかー? 数日分の食事購入しておこうよ。そしたら家でのんびりすごせるし!! あ、でもきー君と一緒ならスーパーへの買い物もたのしかけど」



 花音はよっぽど春休みが楽しみなのかにこにこと微笑みながら沢山喋っている。隣でにこにこと微笑んでいる花音はやっぱり可愛い。




 花音と一緒にスーパーへと向かう。

 手を繋いで近所のスーパーへと入れば、店員さんににこにこと微笑まれる。近所のスーパーの店員さんには、俺と花音の顔をすっかり覚えられているようで、そういう視線を向けられている。付き合いだしてからは特にそうである。




「あのカップルまた来てる可愛いー」とか言っているのを聞いて、ちょっと恥ずかしかったが、まぁ、花音が嬉しいようなので良しとしよう。

「きー君、冬やしさ、鍋とかたべよー!!」

「いいなぁ」

「よねー。じゃあ鍋作ろう。きー君って具材どんなんがよか?」

「鮭とか入れてるとよくないか? 春休みになったばかりだし、ちょっと奮発してもいいだろうし」

「そうね。ちょっと奮発して色々買おう!!」




 花音と一緒だと鍋の具材を買っているだけでも楽しいなと思う。

 こうして何気ないことが楽しいと思えるのが本当に花音が俺にとって得難い女の子なのだと思った。




「鍋やったらしばらくたべれっしねー。あとはお肉とかもかっとこうか。私ね、ローストビーフの作り方、的場先輩にならったんよ。きー君のためにつくっけんね。あ、きー君、飲み物もいくつかかっとこう。重いかもしれんけど、もてる?」

「大丈夫だよ。二人だしちょっとぐらい重いならもてるだろ」

「よーし、じゃあ色々買おう。米は最近買ったけんよかし、きー君、あと足りないものとかある?」



 数日間、外に出ずに過ごせないかと花音は考えているようだ。

 でもまぁ、それもいいよな。花音と一緒に出掛けるのもいいし、家でのんびりするのもいいし。どっちも楽しそうだし。



 足りないものかと考えて、「醤油が少なかったな」と思い出して呟けば、花音が醤油を買い物籠の中へと入れた。



 何が足りないかということを相談しながらスーパーを回っていれば、購入するものが沢山になった。会計は花音が済ませてくれたので、俺は袋に買ったものを入れて行った。重いものを俺が持って、花音が軽めの袋を二つ持ってくれた。

 それから家に帰宅して、冷蔵庫に食材をしまう。



「これでよかね。全部冷蔵庫入れれたし。じゃ、食事の準備すーけん、きー君、のんびりしとって?」

「手伝うぞ」

「よかよか。私がきー君に料理つくりたかとやもん。それにまだ昼間やし、私全然元気やしね」



 終業式は午前中で終わったのでまだ昼間である。



 花音がゆっくりしておいてというので、俺はお言葉に甘えてソファに腰かける。それにしてもなんか、花音がエプロンをつけて、昼食を作ってる後ろ姿を見るとなんだかいいなあってほっこりした気持ちになった。



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