ホワイトデー

「きー君、おはよー!! 土曜日だね。そして今日はなんとホワイトデーだよ!!」



 3月14日。



 それは丁度土曜日だったので、朝早くから花音が俺を起こしにきた。花音は、自己申告でホワイトデーだと主張していた。



 なんだかこうやって笑いかけてくれると、幸せな気持ちになる。

 というか朝から花音に起こされるってとても幸せなことだと思う。



 ちなみに花音へのプレゼントは昨日のうちにゆうきから預かって、隠している。花音には知られているかもしれないけどな。



「おはよう。花音」



 花音は俺が「おはよう」と口にすると、何が楽しいのかにこにこと笑っていた。花音も俺と同じ気持ちでいてくれると嬉しいなとそんなことを思ってしまう。



 起き上がって、顔を洗う。

 顔を洗うとすっきりとした。

 花音が用意してくれた朝食を口に含む。なんだか朝ごはんを食べると頭がはっきりとするものである。



「花音、これ、ホワイトデー」



 自分の部屋に隠していたものを手にして、花音へと手渡す。花音は目をキラキラさせて、嬉しそうに、はにかむように微笑む。



 その様子が可愛くて、俺の頬も緩む。

 何だか俺もだらしない顔をしている気がする。花音と過ごしていると、俺の頬も緩みっぱなしだ。



「わぁ、入浴剤とカップケーキ? ふふ、ありがとう、きー君!! ね、ね、きー君、一緒にお風呂とかはいっちゃう?」

「ぶっ」



 花音がさらりと言った言葉に、俺は思わず吹き出してしまう。



「ふふ、きー君、おどろいとーね?」



 花音は俺が噴き出すことも想定していたのか、ティッシュを取り出してふいてくれる。そうしながらも花音はにこにこと笑っている。



「花音……そういうのは駄目だ。そんなことしたら我慢できなくなるだろう」

「我慢せんでよかとに。だって私ときー君は付き合っとるとよ?」

「いや、駄目だろ。そういうのはちゃんと責任とれるようになってからって言っているだろ」

「もーきー君は、真面目さん!! そういう所も好きなんやけどさー。きー君、かっこいいー!!」



 花音にそんなことを言われて、何だか恥ずかしくなる。



 結局の所、俺が花音に手を出さないのは、ちゃんと責任を取れるようになってからがいいだろうという自分のことも考えての言葉なので、そんな風に言われてもちょっと恥ずかしい。いや、もちろん、花音のためっていうのもあるけれど。




「きー君、かっこいいーって言われててれとーね。かわいかー!! 入浴剤はちゃんと使うけん、よか匂いの私の匂いかいでよかけんね? 寧ろきー君の好きか匂いになりたかよー」




 なんていって花音は微笑んでいた。



 花音は普段から香水などつけていなくても、良い匂いがする。……こんなこと言うとちょっと変態っぽいけど、近くにいるといい匂いがするのは確かである。俺の好きなにおいになりたいなんて言う花音にドキリとしてしまうものだ。



 朝食を食べ終わった後は、花音と一緒にのんびりと過ごす。今日は凛久さんはこちらにはやってこない。ホワイトデーだからと、気を聞かせてくれたみたいだ。

 そういえば凛久さんは大量にバレンタインをもらってそうだけど、ホワイトデーには何か返したりしているのだろうか?



 俺は昨日のうちに明知たちにはホワイトデーを渡しておいたけれど。



「ねー、きー君、百合さんたちさ、どんな格好してたらいいかな? 電話はしとるけど、やっぱりきー君の両親にはよく見られたいっていうか……」



「花音は花音のままでいいんだよ。下手に取り繕った花音よりも、いつもの花音の方が俺は好きだし。それに母さんも素の花音と話したいだろうし」

「ふふ、きー君に好きって言われるとうれしかね。でもドキドキすーね。まぁ、百合さんとは結構連絡取り合っているからまだよかけどさ。百合さんも私と仲よくしてくれているから嬉しいんよねー。他の人たちは最初に連絡を取り合うこともなく、恋人の両親と会ったりするんよね……。どがん緊張するんやろ?」

「そうだよなぁ……。俺ももう咲綾さんたちには会ったことあるからな。今度の春の食事がはじめて会うだったら俺も緊張していたかも」



 俺も両親の顔合わせの前に咲綾さんたちとは会ってるからな。だから、俺もそこまで緊張を感じていない。一度しか会ってはないけど、年末年始に花音の実家で過ごしたからな。



「でもまぁ、緊張より楽しみな気持ちのほうがおおかけどね。きー君の彼女ですって百合さんたちに認められたらうれしかもん」



 なんだかやる気に満ちている花音が可愛くて、頭を撫でる。花音は俺に頭を撫でられるのが好きで、嬉しそうな表情を浮かべる。気持ちよさそうに撫でられる花音が可愛くて、やっぱり頬が緩んでしまう。



 その日は外に出ることもなく、花音とのんびりとゲームをしたり、花音が望んだ台詞を口にしたりしながら過ごした。やっぱり花音との何気ない日々がとても幸せだと思う。

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