約束通り、やってきた。
翌日、天道は約束通り訪れた。事前に「今から行きますね」という連絡は受けていたが、当たり前のようにやってくる天道にやはりまだ慣れない。
昨日、半日も家にいたのだが、天道がやってくるという現実は夢のように思えたりする。
「上林先輩、こんにちはー」
「こんにちは、上がっていいぞ」
「はい。お邪魔します」
天道はそう言って、元気よく俺の家に上がる。
「上林先輩、今日はギャルゲーを持ってきました!! あと読んでほしいものももちろん!!」
「ギャルゲーか」
「はい。男の上林先輩が乙女ゲーやるのは嫌かなと思って、とりあえずギャルゲーを……」
「あー……まぁ、ギャルゲーも乙女げーもあんまりやったことはないが、どっちもやるのは構わない。やったことはないが、面白いものなら男がやっても面白いだろ」
「本当ですか!? ならこのゲーム終わったら次に乙女ゲー持ってきますね!!」
「ああ」
と、その言葉に返事をしながら、このギャルゲーを終わった後も俺と関わる気満々なことに驚く。
本格的に天道に関わり始めて三日目。
天道が俺の声に興味を持ってこうして遊びに来ているのは分かっているが、そんなに先まで続くとは思っていない。今は声が気に入っているとこうして遊びに来ているが、そのうち飽きるだろうというのが正直な感想である。
今は夏休みだからこうして訪れているが、休み明けにはかかわりがなくなるのではないかとさえ考えている。
「今日はですね、貢物を買ってくる暇なかったので明日まとめて持ってきますね」
「……いや、そこまで気にしなくていいが」
「いえいえ、これだけ押し掛けてお世話になっているんですから貢物とか持ってきますよ!! 気にしなくていいとか、本当に上林先輩は甘やかしたがりですね? 甘やかされると私は幾らでも甘えるって言っているでしょう? なので、そんなに甘やかしては駄目ですよ?」
「もー」とでもいうように、天道は言いながらソファに腰かける。
「さぁ、今日もお隣にどうぞ! 今日もその声を聞かせてください!!」
「ああ。ちょっと待て。飲み物だけ先に用意しとく。天道は何が飲みたい?」
「何でもいいですよー」
昨日、天道に言われるままに言葉を発して喉が疲れたりしたので、先に飲み物を用意しておくことにしたのだ。
コップに飲み物を注いで、机の上に置く。
天道は「どうぞ」とばかりにソファの隣を開けているが、改めて考えるとわざわざ隣に座る必要はない。昨日は流されるままに隣に腰かけてしまったが、声を届けるだけなら隣に座る必要もない。
そう考えて、ローテーブルの横に、クッションを引いて座り込む。
「あれ? 何でそこに座るんですか? 隣にどうぞ! って思ってたんですけど。それにお客としてきている私がソファで、家主の上林先輩がそっちっていうのはちょっと。それに、私は上林先輩の声が好みだからこそ、至近距離でその声を聞きたいのですけど」
「いや、そうはいってもこう……隣にわざわざ座るのもなぁと」
「もー、そんなの気にしなくていいのです! 私が良いっていってるんですから余計なことを気にせずに隣にさっさと座ってしまってくださいよ。上林先輩がこちらに座らないなら私がお隣に座りに行きますよ?」
「あー、じゃあ、座る」
勢いよく言われた言葉にそう答えて、改めてソファに腰かけた。どちらにせよ、天道が俺の隣に来るというのならばソファだろうが、クッションに座ろうがどちらも変わらない。
「それでいいのです。あくまで私は上林先輩のご厚意によってここでくつろがせてもらってるんですもの。だから、上林先輩は遠慮せずに、寧ろ、私などいないものみたいな感覚で過ごしてくれて構わないのですよ?」
「いや、いないものみたいな感覚は無理だろ。きちんと話しだして三日目だぞ? 寧ろ天道は三日目にして慣れすぎだろ。そして俺を信用しすぎだからもう少し警戒心を持った方がいい」
「えー。そんなこと言われても。私はちゃーんと上林先輩を観察して大丈夫って確信を持ちましたし、好みの声を聞きたいって気持ちでいっぱいなんですよ。上林先輩の声を沢山聞きたいっていう欲望があるからこそです。私は好きなものを見つけたらグイグイいっちゃうんですよね」
「……そうか」
「ええ。そうですよ。というわけで、今日もよろしくお願いします」
「ああ。今日もよろしく」
律儀によろしくお願いしますという天道に、俺も返事をした。天道はそれを聞いて何が楽しいのか楽しげな笑みを浮かべるのだった。
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