ギャルゲーをやる。
さて、よろしくお願いしますと互いに言い合った後、俺は天道に望まれるままに台詞を言った。昨日のように何度も指示を出されたあと、天道は「はぁー、やっぱり良い声ですね」とにこやかに笑っていた。
「はぁー、もっと色々な台詞を言ってほしいところですが、流石にそれだと上林先輩も疲れるでしょうし、他のことしましょう! 今日もとても良い声、ありがとうございました!!」
「おう……」
天道は俺の声を存分に堪能したらしく、嬉しそうに微笑んでいた。
なんというか、俺の声一つでそんな風に満足そうに笑ってもらえるのは正直言って悪い気はしない。それに明るい天道の笑みを見ているのも楽しいとさえ思う。
……話し始めて三日目なのに、そんな気持ちにさせるなんて天道は本当に魅力的な女の子なのだと思った。
「上林先輩、ギャルゲーやりましょう。ギャルゲー!!」
俺の声に満足した天道は、勢いよく顔をあげたかと言えばそういった。
持ってきたギャルゲーを一緒にやりたいらしいのでゲームをする準備をする。
「主人公の名前、どうします? ここはやはり上林先輩の名前で行きますか?」
「俺、あまりこういうゲームやらないから名前どうするべきかよく分かってない」
「そうなんですか? 嫌じゃなかったら上林先輩の名前で進めますが」
「それで構わない」
こういうゲームはやったことはないが、天道がこれだけ楽しそうにしているのでよっぽど楽しい話なのだろう。それにやったことのないゲームだからこそ、やってみたら新鮮で楽しいかもしれない。
ギャルゲーの主人公名を「喜一」と設定する。
このギャルゲーは主人公が高校に転入してから始まる物語のようだ。真っ先に出てきた女の子がまず、
『あれ、喜一君じゃない?』
と声をかけてきていた。
選択肢が現れる。『香か?』『誰だ?』『胸大きいな』と三つの選択肢が現れているが、三つ目はただのセクハラでしかないと思った。
天道は俺に自由にプレイしてほしいのか、隣でどれを選ぶんだろう? とでもいう風にキラキラした目でこちらを見つめている。……本当に犬耳と尻尾の幻想が見えてならない。学園の連中に天道がギャルゲーを楽しんでいるなんて言ったらどうなるだろうか。まぁ、基本的に冗談と取られて終わるだろうけど。
俺は無難に『香か?』を選ぶ。
しかしそれを選んだら、三つ編みの女の子の顔はみるみる暗くなった。
『香って、誰? 喜一君、まさか、私のことを覚えていないの?』
……そして好感度が下がった。って、下がるのか。となると誰か分からないと、セクハラ発言が正解だったのか? よく分からない。でもまぁ、一人一人の性格もあるだろうから俺が予想外に思っている答えで好感度が上がる事もあるか。何が嫌で何が好まれるかなんて人それぞれだろうから。
まぁ、一旦クリアしてみようと思い、先に進める。
次に出てきた攻略対象らしい女の子は、金色の髪を持つ女の子だった。この子は一人暮らしをしている主人公の隣の部屋に住んでいるらしい。いわゆるお隣さんというやつだ。
この子は主人公の隣のクラスにいる留学生で、ベランダに下着が落ちていたことからかかわりが始まるといった話のようだ。
ちらりと天道の方を見てしまう。
この留学生もだが、天道も随分無防備だ。幸い、このギャルゲーの主人公や俺がそういう人間ではないから問題はないかもしれないが、下手をすると危険な目に遭うだろう。
「ん? なんですか、上林先輩?」
「……いや、この子も天道みたいに無防備で心配になるなと」
「もー、なんですか、その父兄目線みたいな感想は! 上林先輩はこれからこの子を含めた女の子たちを攻略するのですよ! あと私は無防備では決してありません!」
「話始めた翌日から男の家に入り浸る人間が無防備ではないとは言えないと思うんだが……」
「上林先輩は大丈夫だって確信したからですってば。それより私ではなく、ゲームに集中してくださいよ! 攻略対象はあと六人いるんですから、そこからどのルートに行くか選んでくださいね! ちなみに個別ルート、姉妹ルート、複数ルート、逆ハー(全員俺の嫁)ルートとか、沢山ありますから! ちなみに私は全部やりましたよ!」
……全部やったのか、と驚きながら先を進めていく。
その後に生徒会長、美少女姉妹、女教師と出てきたが、残りの二人に関しては隠しキャラらしい。ある一定の条件を満たした時にのみ現れるキャラなんだとか。
ちなみに俺にギャルゲーの才能がないのか、たまたまこのギャルゲーが俺に合わないのか、好感度が下がる選択肢をよく選んでしまっている。
「隠しキャラ以外は出ましたね! 折角なので一つのルートをクリアしてみましょう。まずは、どうしますか? 一番最初なので難しい複数攻略ルートよりも個別ルートの方がいいと思うんですが。ちなみに一番難易度が低いのが幼馴染ちゃんです!」
天道はよっぽどこのゲームをやりこんでいるようで、攻略サイトなど見ることもなくペラペラしゃべっている。
天道の言葉に俺は思案する。
まず、幼馴染を真っ先に攻略するのはちょっと思う事があって却下。お隣さんは、実際のお隣さんである天道がいる前で攻略を始めるのはちょっと……と思うので却下。となると生徒会長、美少女姉妹、女教師か? でも女教師が学生と付き合うルートはなぁ。それに美少女姉妹のどちらかを攻略するとしたら、姉か妹かを振ることになるわけで、消去法としてギャルゲー初心者の俺は生徒会長を攻略してみることにした。
「じゃあ生徒会長で」
「おおっ。いきなり生徒会長ですか! 会長はとってもクールでキリッとしてる出来る女の子なのですよ。だけど仲良くなるにつれて可愛い一面を見せつける、まさにギャップ萌えなのです。この声優さんはとっても良い声をしているのですよね。上林先輩も絶対にキュンキュンしますよ!」
「……そうか」
「それにしても上林先輩ってクール系美少女が好みなのですか? 会長は可愛いですもんねー」
「いや、好みで選んだんじゃない。消去法だ」
「消去法で会長ですか? 他の子も魅力的なのにー。まぁ、いいです! 上林先輩にはルートを全てクリアしてもらうつもりですから覚悟してくださいね!!」
全部やらせる気かよ、と思いながらも一先ず生徒会長を攻略するために動くことにする。
生徒会長は主人公の一学年上で、大学受験を控えている成績優秀なクールビューティーだ。学年も違うので上手く選択肢を選ばないと攻略する事は難しいらしい。
まずは、生徒会長とのかかわりを深めるために生徒会に主人公が入れるように頑張るべきだろうということで、成績と魅力のパラメータをあげることにした。
……隣でニヤニヤしながら見ている天道はネタバレのアドバイスをするつもりはないらしく、助言は何もしてこない。
学年一位の成績にまで上げれば、なぜか生徒会長狙いで攻略を進めているはずが他の攻略対象の好感度も上がった。そのため、生徒会には主人公だけではなく幼馴染も入ることになったようだ。
『喜一君が頑張っているのを見て、私も負けてられないと思ったんだ』とニコニコと笑って言っていた。教室でも真面目に勉強する選択をしたりしていたのでそれにつられて幼馴染の子の成績も上がったようだ。
これ、家でのみ勉強する選択肢をしたらこんな風にならなかったりするんだろうか? 設定が細かいのか、ちょっとした選択肢の変化で色んな変化が訪れるようでちょっと面白いなと思った。
生徒会に入って、順調に会長との交流を深めていく。大体幼馴染もいるが、徐々に会長と仲良くなれているのではないかとと思ったのだが、まじめに生徒会の仕事をこなし、真面目に学生生活を過ごしていたら生徒会長は卒業を迎えてしまった。
そして主人公は生徒会長になり、幼馴染が副会長になり、『これからもよろしくね、喜一君』と笑う幼馴染のスチルで終わった。
そして最後にこれが幼馴染との友情ルートでの終わりだと分かった。
「一発目は友情ルートで終わりなんですね。上林先輩らしい感じです。ちなみに幼馴染ちゃんはどのルートでもどんどん介入してきます。とってもチョロい子なのです。そんなところも可愛いのですがっ」
「そうか」
「じゃあ、次はどのルートしますか?」
と、にこにこ笑う天道に促されて、俺は二週目をプレイし始めたのだった。
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