俺の誕生日 ④
「きー君、ハッピーバースデー!!」
家に辿り着くと、花音はやっぱり俺におめでとうの言葉を告げる。何度も告げられる言葉に、何だか嬉しくなる。
花音は一度、自分の部屋に戻ると言っていたのでその間に俺も着替えを済ませる。
「きー君、私、何往復かすーけん、ゆっくりしときーね」
「俺も手伝うぞ?」
「ううん、やらんでよか。私がきー君をお祝いしたかとやもん。それにきー君は今日、王様みたいなもんよ? 誕生日なんやけんもっとゆっくりして横暴でもよかとよ!!」
「いや、でもただまっとくのも落ち着かないんだが」
「めーよ、きー君!! 私がきー君のことを祝いたかけん、きー君はゆっくりしときーよ。ね?」
手伝おうと思って花音の傍に立てば、下から見上げるように花音に見つめられドキリとする。
無邪気に微笑むその姿はやっぱり可愛い。
「ふふ、いい子やけん、ゆっくりしときーね? すわっとって?」
「分かった」
子供に言い聞かせるようにかわいく言われて、俺は頷く。あまりにも可愛くて言うことを聞きたくなってしまう何かがあるというか……。
俺は大人しくソファに腰かける。
うーん、花音にこんな風に色々されると俺も何かしてあげたいな。今度、どこかに出かける計画でも俺の方でたててみようかな? 今日は多分俺の誕生日だから、俺に動かさせてはくれないから明日以降になるだろうけれど。
俺がそう思いながらテレビを見ている間に、花音はせっせと何往復かしていた。それにしても大量に持ってきているけれど、どれだけ準備してくれていたのだろうか。
本当に花音はいつでも一生懸命で心が温かくなる。
一年前まで全く考えていなかった。一年前の俺はこういう風に祝われるなんて思っていなかった。そう考えると少しだけ不思議な気持ちになった。
「きー君、準備出来たよ!! 食べよ!!」
「ありがとう。花音」
花音の大きな声に俺も席に着く。机にはホールケーキ、あとは買ってきたであろうチキンや花音が作ったハムカツなどの料理が並ぶ。ホールケーキには「きー君、17歳の誕生日おめでとう」と書かれている。
「これ、花音が作ったのか?」
「そーよ!! きー君のためにケーキも作ったんよ。チーズケーキやんよ。きー君、ケーキすきやけんさ。私もいっぱい食べたかし、おおきめに作ったんよ。的場先輩に習ってね、一生懸命やったん!! きー君がおしいかーって言ってくれたら嬉しかよ。でもまず、ご飯からたべよっか!!」
「ああ」
花音の用意してくれた夕飯を食べる。それにしてもこれも二人で食べるにしては多い。残ったものは、明日以降も食べることになるだろう。
「花音、夕食の用意ありがとう。花音が俺のためにって用意してくれたと思うと嬉しいよ」
「ふふ、きー君が喜んでくれて本当うれしかよー。私のきー君を喜ばせるぞって誕生日大作戦が成功しているっていえるんかね?」
「そんな名前だったのか? 大成功だと思うぞ」
「今つけたんよね。でも大成功やとうれしか。きー君、誕生日っていう貴重な日に私と過ごしてくれてありがとー!!」
「俺の方こそ、ありがとう。俺と過ごしてくれて。こうやって祝われて嬉しいよ」
「きー君、嬉しそうにわらっとーとかわいかねー。こがんかわいかきー君、見れるん彼女の特権よね。得だわー!!」
多分俺の方が花音の可愛い姿を沢山見れて、得をしていると思うのだが……花音はいつも無邪気で可愛いなと思う。
食事を取って、あまったものは冷蔵庫にしまうことにする。
けどその前にケーキを切り分ける。俺と花音は甘い物が好きなので、大きめに切り分けて食べる。
フォークを突き刺して一口食べる。
「花音、美味しい!!」
「きー君がおいしかっていってくれっとうれしかよー。それにしてもケーキつくっとも楽しかよねー。また別の味もつくっけんね」
にこにこと笑いながらそんなことを言う花音。
花が咲くような笑みを見ると、俺までにこにこと笑ってしまう。
「あ、そうだ。きー君、これ、プレゼント。さむかけん、セーター買ってきたんよ。どーぞ」
「ありがとう、花音」
二月で寒いのでセーターを買ってくれたらしい。その暖かそうなセーターは冬に使い勝手がよさそうだ。素直に嬉しい。何より花音が選んでくれたと思うだけで大事に使おうと思った。
きっと花音は俺が身に纏っているだけでも笑ってくれるだろう。俺も花音が自分があげたものを見に着けていると嬉しいし、きっと花音もそうだろう。
「余った分は明日たべよーね」
「ああ。明日食べよう」
そんなことを話しながら花音と一緒に残った食べ物を片づける。ケーキも残っているので明日も楽しみだ。
「きー君、本当おめでとーね」
花音は何度も何度もおめでうと口にして、俺の誕生日を自分の誕生日のように嬉しそうに言う。
それからいつも通り過ごして――とはいっても花音が誕生日だからといつもより甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれた。なんだろう普段から花音は俺のためにって色々やってくれるけど、いつも以上だった。
そして時間が経過し、夜になり、花音は部屋へと帰る時間になった。
「きー君、私かえんね」
「ああ。また明日」
「うん。また明日。で、きー君」
花音に手招きをされ、顔を近づける。何か話があるのだろうかと思っていたら、花音が顔を近づけてきた。
——そして、ちゅっと口づけをされる。
驚いて固まっていると、花音の顔が離れていく。
「えへへー、初ちゅーのプレゼントだよ。じゃ、またね!!」
少しだけ顔の赤い花音は、悪戯な笑みを溢して、そのまま去っていった。
俺は顔を赤くしたままそれを見送るしか出来なかった。
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