3月になって

「きー君、おはよう!!」



 俺の誕生日が終わり、少し経ち、三月がやってきた。



 キスをされてからしばらく互いに挙動不審だったものの、今はすっかり花音も俺もいつも通りである。

 朝から花音は俺の家にやってきて、にこにこと笑っている。

 そして花音が作ってくれた朝食を食べる。




「ねーねー、きー君、もう3月やね」

「そうだな。もう3月だな」

「きー君と話すようになって半年とちょっとかぁ。なんかきー君と過ごすようになって、きー君と過ごすの楽しすぎて時間が経つのはやかったなぁ」

「まだ、半年と少しか……」



 花音と話すようになったのは夏休み中なので、まだ半年と少ししか経過していない。そう考えるとこの半年、濃かったな。

 そしてこんなにも楽しい時間だったからこそあっと言う間だった。



「俺も花音と過ごしたから時間が経つのはやかったよ」

「ふふ、きー君も? 同じ気持ちってうれしかねー。ね、きー君、これから大人になってもおじいちゃんおばあちゃんになっても一緒に居て、同じような会話して笑えたら凄い素敵だと思うんよ」



 花音がなんか可愛い事を言っている。



 きっと花音はもっと大人になっても、おばあちゃんになったとしても可愛いんだと思う。うん、そういう未来を想像するだけで楽しくなる。




 もしかしたら花音と過ごして居ればそういう未来もあっと言う間に過ぎていくのかもしれない。

 それに花音が俺と未来でも一緒に居ると、そんな風に言ってくれることが何よりも嬉しい。

 思わず花音の頭を撫でてしまえば、花音は嬉しそうに笑った。




 それから花音と一緒に学園へと向かう。手を繋いで二人で歩く。




「きー君、来月にはもう学年があがっと思うと不思議やね。私にも後輩が出来るんよねー」「そうだな。でも俺も花音も部活に入っているわけでもないから、後輩が出来るって実感は湧かないかな」

「そうやね。んー、でも私きー君になかよか後輩できっと嫌かも」

「なんで?」

「なんでって、そりゃ、私が一番きー君のなかよか後輩やもん!!」

「その前に花音は彼女だろ。彼女は花音一人だけなんだから」

「えへへー、きー君に彼女って言われるとなんか嬉しかよ。でも違うんよ。彼女の地位はもちろん、誰にも渡さんけど。きー君の可愛い後輩の座も私だけやけんね。私が一番!!」




 なんだかよく分からない所にこだわりがあるらしい花音は、俺に向かってそう言ってはにかむように笑う。

 どちらにせよ、俺は人付き合いをそこまでしているわけでもないし、彼女の座も仲が良い後輩の座も花音が不動だと思うんだけど。




「そうだな。花音が一番だな」

「なんだか、きー君適当!?」

「適当じゃないよ。本気だから」



 俺より背の低い花音の耳元に口を近づけて言えば花音がピクリっとした。




「……き、きー君!! そんな素敵な声で、本気な感じの声で囁かれると超ときめくんやけど!! というか、きー君の声、やっぱり好きなんよ。いい感じの低音で、私のためだけに囁いてくれていると思うと……こう……」

「花音、しーってしような。声が大きいからな。周りに人が少ないからまだいいけど、皆驚くから」

「そうやね! 頑張って私の心をおちつかせる!!」




 花音はそう宣言したかと思ったら今度は自分を落ち着かせるためか黙った。一生懸命落ち着こうとしている花音。そういう花音も可愛いと思う。




 それにしても花音は本当に見ていて全く飽きない。

 俺の予想外の行動ばかり起こすし、いつだって真っ直ぐで、見ていると俺も笑ってしまう。



 結局花音は自分を落ち着かせるといって静かだったが、その表情を見ているだけでも俺は楽しかった。そして学園に辿り着き、俺と花音はそれぞれの教室に向かう。





「なんだか花音ちゃん、静かだったけど喧嘩でもした?」




 などと俺と花音の様子を見ていたらしいクラスメイトに、軽く状況を説明すれば「……惚気じゃん!!」「花音ちゃん、本当可愛いよね」などといって笑われてしまうのだった。



 来月には俺は三年生、花音は二年生。実感は湧かないけれど、新しい季節がもうすぐ始まるのだ。

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