話しかけてくる委員長と、家にいる花音。

「上林君、永沢君、おはよう」

「これ、どうぞ」



 明知はよく話しかけてくるようになった。俺がたまたま階段の下にいて、受け止められただけなので、気にしなくていいのだが――、明知は律儀な性格をしているのかもしれない。



 明知は元々人付き合いが良い方で、クラスメイトのほとんどの仲良しである。少し不真面目な生徒とも仲が良かったり、ギャルみたいな生徒とも仲良く話しているのを見かける。


 ついでに言えばクラスメイトだけではなく、他クラスの生徒や後輩や先輩とも仲良く話しているのを見かける。もうすぐ卒業する親しくしていた高校三年生の先輩に花を送ろうとしているらしく、クラスメイトたちとそういう話をしているのも見かけた。



 俺は正直部活にも入っていないし、親しい先輩もいないから社交能力というか、コミュニケーション能力が凄まじいなと思ってしまう。

 俺も来年には卒業を迎える……と思うと不思議な気持ちにもなる。高校に入学した時は、三年間が長く感じたのに、もう高校二年生の一月を迎えている。特に花音と一緒に過ごすようになってからは特に楽しくて時間が経つのがはやい感覚である。




「上林君、永沢君、皆で勉強会をしようと思っているのだけど、一緒に勉強しない?」

「あー……やめとくよ」



 明知に勉強会に誘われたが、あまり大人数なのも疲れるし、花音が家で待っていると思うとすぐに帰ろうと思ってしまう。たまにならいいだろうけど……、最近、花音は俺に美味しい料理を食べさせるんだと思っているのか、料理を用意して待っていてくれてるしな。



 たまに味付けを失敗したのか、しょっぱいものになったり、焦げていたりすることもあるが、日に日に美味しくなっていると思う。というか、俺がもう少し~の方が好きかもというとそんな風に作ろうとしてくれる。最近、俺が料理をしようとすると「私がやっけんね!!」と料理をさせてくれない……。

「そう、じゃあ機会があったら今度一緒に勉強しようね」

 明知は俺が断っても気にした様子はなく、そう言って微笑むのであった。

 それから家へと戻る最中に、コンビニに寄った。夕飯の買い出しなのは「私がやるよ!!」と料理をやる気満々の花音が行っている。張り切ってご飯を作ってくれている花音のためにも、コンビニに来ているのだ。花音が好きな漫画とコンビニがタイアップしていて、お菓子を買うとクリアファイルがついてくるのだ。お菓子買って好きな作品の商品が手に入るとかいいよな。



「きー君、おかえりー」



 家に帰宅すると花音はいつも通りにこにこ笑って、そこに居た。もう制服から私服に着替えている。ピンク色のエプロンも身に着けている。ちなみにこのエプロンは的場先輩からのプレゼントらしい。



「ただいま、花音」

「きー君、今日もおいしか料理つくっけんね? きー君は勉強したり、ゆっくりしとってー」



 しばらくは花音は一人で料理をする気満々らしい。多分、そのうちまた「一緒に料理しよう」と言われるだろうとは思うけれど。

 笑みを溢している花音に先ほどコンビニで手に入れたクリアファイルを渡せば、目を輝かせた。



「きー君、くれっと?」

「ああ。いつも美味しい料理、ありがとう」

「ふふ、私が好きで作っとるんやけん、よかよ? きー君は律儀さんやね。いい子いい子―」



 何だか急に手を伸ばしてきた花音に頭を撫でられた。何だか慈愛深い表情を浮かべている。……何だかいつもの満面の笑みともまた違う笑みで、ちょっと恥ずかしくなる。



「何だか、撫でられると恥ずかしい」

「照れてるきー君、かわいかねー。あ、私の頭も撫でる?」



 花音は代わりに私の頭もどうぞ! とでもいう風に俺に向かって頭を差し出してくる。キラキラした目の花音の頭を撫でれば、花音は嬉しそうに微笑んだ。



 ……何で二人してリビングで頭を撫であっているのか、不思議な感覚になった。


 その後、花音が満足するまで撫でた後、花音は料理の続きを始めた。俺はその間、受験勉強を行っている。



 空いた時間は遊びたい誘惑がいっぱいだけど、受験のためにも勉強を頑張らないと……。これで大学受験に落ちたら困るし。滑り止めの大学もどこにするかとかも考えて行かないと……。

 勉強を続けていれば気づけば時間が経過していて、すぐ近くに花音がいた。音を立てずに近づかれて、全く気づいていなかった。



 花音は俺の視線を受けると、笑った。



「きー君、お疲れ様!! ご飯たべよー」

「ああ」



 花音の作ってくれた料理を食べた。夕食の後は勉強も少しはしたけれど、花音に頼まれて台詞を口にしたり、一緒にゲームをしたり……遊んだりもしてしまった。花音と遊ぶのは楽しくて、つい勉強もさぼり勝ちになってしまいそうだから気をつけないとなと思った。


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