視線
天道花音に荷物を手渡してから、視線を感じるようになった。誰かに見られている、と思って見返せば、そこに天道花音が居る。
……何故だろうか。
何で俺の事を見ているのかは分からない。ただ、荷物を手渡すまでこんな風に見られていたことはなかったので何がなんだか分からない。
俺に惚れたっていうことはないだろう。そんな要素欠片もない。そんな自惚れた思いはすぐさま却下出来るので、本当に何故だか不明だ。
たまに、すれ違った時とかに、じーっと見てたりする。……何なのか教えてほしい。しかし、こちらから天道花音に話しかける気はないので一先ず放っておくことにした。
もしかしたら荷物を手渡すときに何か俺がやらかしたのか、とも考えたがそんな記憶は一切ない。
夏休み中はゆうきと遊んだりする以外は、ほとんど家から出る予定はない。両親は仕事で海外にいるし、こんな暑い中外には出たくないからだ。それで買い物のために外に出るのだが、それなりの頻度で天道花音を見かける。
多分、天道花音もこれだけ暑いため涼しくなった夕方に買い物に出かけようと思っているのだろう。そのため、ちょくちょく遭遇することになっている。その度にじーっと見られていたりしているので落ち着かない。
向こうもこちらを見てはいるが、俺に話しかけようという素振りも今の所ないので本当に分からない。あれか、聖母のようだと言われているし普通とは違った考え方でも持っているのだろうか。
考えても仕方がないので、俺は自分のペースで生活していた。正直、天道花音に見つめられていようが、俺の生活が変わるわけでもないし。気にして生活リズムを変えるのも何だか嫌だったのだ。
そのため、宿題をさっさと済ませたあとは家でのんびりゲームをしたり漫画を読んだりしていた。夏休みというのは思う存分遊べて楽しいものだ。
それで午後になると買い出しに向かい、天道花音の視線を時折感じながら買い物を済ませる。
二週間もそういう事が続けば、すっかり天道花音の視線にも慣れてきた。害もないし、別に構わないだろうと思いながらのんびりと過ごす。
八月の後半に差し掛かった頃、唐突に変化が訪れた。
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