はじまり

 その日はよく晴れた日だった。


 新しい一年生が入学してから四か月、8月に入ってすぐの日。

 夏休みに突入し、すっかり蒸し暑くなっている暑い夏の日のことだ。



 近所のコンビニにアイスを買いに出かけた。暑い夏の日は、クーラーの効いた部屋で冷たいアイスを食べるに限る。

 海外にいる母さんにはあまりアイスばかり食べ過ぎては駄目だと電話越しに言われたが、夏休み期間中にかなりの量のアイスを食べている気がする。幸い、お腹は壊していない。


 コンビニから帰宅して、汗を拭う。

 電気代はもったいないかもしれないが、すぐそこに出かけるというのもあってエアコンはかけっぱなしにしていた。

 そのため、部屋の中が涼しくて気持ちが良い。ひとまずアイスを冷凍庫に入れて、一息をつく。



 コンビニの帰りに郵便受けの中に荷物が届いているのを見た。その取り出したものを見る。

 ……って、これ隣の天道花音宛の荷物だ。

 小さな箱だったから、何かと思っていた。暑かったから一旦部屋に持ち帰ってしまったが、天道花音の荷物が此処にあるというのは問題だ。

 届いていないことに困っているかもしれないし。とりあえず、届けに行くか。

 そう思いいたって、部屋を出る。



 そして、ピンポーンとチャイムを鳴らした。



 というか、よく考えたら下の郵便受けに入れなおせばよかったかもしれない。暑いし、隣だしと思ってつい勢いのままに鳴らしてしまったが……。


『はい』


 天道花音の声が聞こえてきた。



 このマンションはインターフォンで来館者の顔が見えるようになっているので、俺の顔は向こうに見えているだろう。

 少しだけ声が硬いようにも思えた。まぁ、そうだよな。突然、かかわりもない隣人がやってきたら訝しく思うのは当然だろう。



「俺の所に君の荷物が届いていたから持ってきたんだが」

『私の荷物?』


 正直、天道花音を何と呼べばいいかも分からないので君などと言ってしまった。

 小さな箱を見せるように前に出せば、ドアが開いた。警戒しているのかチェーンはつけられたままだ。まぁ、女性の一人暮らしならそんな警戒が必要なのだろう。



「はい、これ」

「……確かに私の荷物ですね。ありがとうございます」



 天道花音は荷物を確認して、小さな笑みを溢していった。


「気にしなくていい。じゃあ」


 間違えて届けられていた荷物を渡せて満足した俺は、すぐに踵を返して部屋に戻るのだった。




 その姿を天道花音が見つめていた事など知る事もなく、部屋に戻ってイチゴアイスを食べて満足していた。


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