恋人になってから初めての学園 ②

 花音と別れて、それぞれの教室へと向かった。



 教室に辿り着くまでの間、特に話しかけられることはなかった。ただこそこそされていて落ち着かなかったけどな。花音はいつもこういう視線を浴びているのかと思うと……凄いなと思う。



 俺も花音と付き合いだしたわけだし、いつかこういう視線にも慣れるのだろうか。


 緊張しながら教室の扉を開ける。ヤバい、凄い注目を浴びている……と怖気つきそうになっていれば、倉敷と三瓶が近づいてくる。



「おはよう。上林!! 上手く行ったんだな。良かったな!!」

「というか、この的場先輩のまとめた新聞、いつインタビューしたの? 大分、天道さんの言葉が書かれていたけど……」



 ……的場先輩の出来上がった新聞を俺はまだ読んでいない。三瓶に渡されたものを読んだら……うわ、花音の写真と一緒にインタビューが載せられている。しかもこれ俺の部屋だし。的場先輩、俺と凛久さんが出かけている間に写真撮っていたのか。


 あと書いていることが大分恥ずかしい。的場先輩は何を聞いているんだ。そして花音は何をこんなに恥ずかしいことを言っていたのだろうか。あれかな、付き合い始めた次の日でテンションがおかしかったのかもしれない。多分、花音もこれを見て恥ずかしがっている気がする。



「そんなに上林と天道さん、仲良かったんだなぁ……」

「どうやって付き合いだしたんだ?」

「そうよねー、上林君と花音ちゃんって全然イメージわからないんだけど、どんな会話しているの?」



 もしかしたら俺が花音と付き合いだすことを認めないと言ったクラスメイトもいたらどうしようか……などとも少し思っていたのだが、そういうのはなさそうでほっとする。



 軽く聞いてみたら、「別に花音ちゃんが望むならいいかなー」とか「寧ろクラスメイトが天道さんと付き合うとかすげぇ!! ってなるだけだな」とか、「花音ちゃんのことは好きだけど、遠い存在だしなー」とかそんな反応の方が多かった。


 ああ、でも確かに俺も花音と接するまでは『聖母』なんて呼ばれているし、花音は遠い存在だったんだよな。寧ろ同じ人間だと思えないぐらいに、完璧な存在だった。——でも共に過ごすようになったら、花音は人間味が溢れていて、無邪気で……。そういう花音を知ったら皆、親しみを感じるのだろうか。


 そんなこんな考えていたら、「上林君」と明知に声を掛けられた。



「天道さんだったんだね。おめでとう」



 明知は優しい笑みを浮かべて、そう言って俺のことを祝福してくれた。



 まぁ、クラスメイトたちはともかくとして休み時間に違う学年の生徒たちが覗き見にきたりして落ち着かなかったけど……、花音に聞いたところ、花音の方はもっとすごいらしい。



 俺はなんというか、何だかんだクラスメイトたちが助けてくれているというのもあって変なのには絡まれていないけれども、花音は色んな人から色々聞かれているらしい。まだ小林を含む周りの生徒たちが壁になっているから変なのはきていないらしいけど。



『きー君のことをのろけとーよ』


 などと帰ってきたので……、何を言っているのか若干の不安はあるが、そのあたりは家で聞こう。

 昼休みになった途端、教室の外が騒がしくなった。



「きー君!!」

「上林君!!」



 呼ばれてそちらを向けば、花音と的場先輩がいる。というか、花音は思いっきり素が漏れている。



「一緒にご飯食べようよ」



 そんな誘いに乗って、共に食堂に行くことにする。ちなみにゆうきも一緒だ。



「この面子と一緒にいるとか、後から何と言われるか……」

「俺も花音と的場先輩と一緒に食事だと色々言われそうだなぁ」

「いや、喜一は天道さんの恋人だから大丈夫だろ」

「大丈夫よ。永沢君!! 永沢君のことも私が守ってあげるわ」



 的場先輩はにこにこ笑いながらゆうきにそう言った。的場先輩はゆうきにも被害がいかないようにちゃんと根回しをしてくれるらしい。そういう根回しが出来る的場先輩は凄いと思う。


 そんな風に思っていると隣の花音が「えへへ」などと顔をほころばせている。




「花音、機嫌よさそうだな」

「当たり前―。だって、きー君と一緒にご飯……だから」



 花音はへにゃりと笑って方言が出そうになったとはっとしたのか、その表情を引き締める。でも口元は緩んでいて、明らかにご機嫌である。俺と一緒に学園で食事がとれることが嬉しいらしい。本当に可愛いよなぁ……とマジマジと見てしまう。



「ん? きー君、じっと私を見つめてどう……したの? 私が可愛いと実感してる?」



 からかうように言った言葉に、「うん。花音が可愛いなって実感してる」って答えたら、自分で言い出したくせに花音は顔を赤くする。



「……そ、そういうのは二人きりん時にせんとよ!!」


 そして恥ずかしかったからか方言が思いっきり漏れてた。そんなに大きい声ではなかったが、近くにいた生徒には聞こえていたみたいで、驚いた顔をしていた。




 そんなこんな話しているうちに、食堂へと到着した。



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