恋人になってから初めての学園 ③
食堂へと到着したが、相変わらず注目を浴びていて落ち着かない。まぁ、的場先輩が根回ししてくれていたからか、変な騒ぎ方はしていないけれど。
少し気まずくて足元に一瞬視線を向けてしまったら、花音に声をかけられる。
「きー君、顔あげてよかとよー。というか、周りの目なんか気にせんで、私だけみときーよ」
「……っ」
俺の顔を覗き込んで、花音は満面の笑みを溢す。その何処までも嬉しそうな笑みにドキリッとする。やっぱり花音は、可愛い。
「きー君、私に見惚れ……てるの?」
「うん」
「ふふ、きー君は素直さん……だね」
嬉しそうににこにこと微笑む花音。ちょくちょく素の方言が出そうになっているのは、俺にそれだけ気を許しているという証なのだろう。そう思うと何だか嬉しかった。
「花音ちゃん、上林君、イチャイチャしているのは可愛いけれど注目を浴びているから一旦席につきましょうね」
「……天道さん、ものすごい素が漏れてるな」
ニヤニヤしている的場先輩と、呆れているけど優しい笑みを浮かべているゆうき。
何だか恥ずかしくなって、俺は「はい」と答えて四人で席を取る。的場先輩とゆうきが席を取っておいてくれているので、俺と花音は二人で会話をしながら食券を購入する。なんだかガヤガヤと周りは騒がしいけれど話しかけてこられることはなかった。
「きー君、何たべるの?」
「俺は焼きそばかなぁ」
「焼きそば! よかよね」
うん、というか花音が本当にちょくちょく漏れていて、それに驚いている生徒がおおそうだ。それに多分花音の表情も学園で過ごしている時と違うからその事にもいろいろ思われてそうだ。
花音はトンカツ定食を食べるようだ。二人で席へと戻れば、的場先輩とゆうきも昼食を買いに向かった。
「花音ちゃんはトンカツ定食食べるのね。がっつり系ね」
「おいしそうと思ったので。それになんというかやっぱりきー君と一緒に食事を取れるの嬉しいなって食欲が凄くわいているんですよねー」
「やばいわ!! 花音ちゃん、超可愛い!! 超にこにこ!! 駄目よ、そんなに可愛い姿を見せたら異性はいちころなのよ!!」
うん、的場先輩に同意してしまう。いつも学園で見せている『聖母』様としての姿は、なんというか、手を出してはならないような――同じ人間ではないような雰囲気があるけれど、今の花音って本当に屈託のない笑みを浮かべていて……元々異性に好意を持たれやすい花音がこういう姿を見せていると少しだけ不安になる。
「きー君、どうしたん?」
「いや……、的場先輩の言う通りそういう姿を見せると告白増えそうだなと」
「心配して……るの? 大丈夫。私はきー君が好きで、きー君と付き合っているんだから」
花音は本当に素直だなぁとそんな気持ちでいっぱいである。花音の言葉や花音の笑顔は、いつも真っ直ぐで、そういう真っ直ぐな花音を見ると心が温かくなる。思わず隣の席に座っている花音の頭を撫でる。花音は嬉しそうに「えへへー」と笑っている。そこまでそて此処が学園だと気づいて恥ずかしくなる。
周りに視線を向ければ驚愕した表情で見られていて、思わず花音の頭から手をどけた。花音は「え、やめるの?」といった表情なので、家に帰ったら撫でようかなと思う。
「いちゃいちゃしているわね。とてもいいわ。こういういちゃいちゃしているのを見ると楽しいわよね。永沢君はどう? こういう花音ちゃんたち見ると幸せな気持ちにならない?」
「そうですね。喜一が幸せそうでいいなぁと思いますよ」
的場先輩とゆうきは楽しそうな顔で何だかにこにこしていた。
食事を取り終えて教室に戻れば、「上林、花音ちゃんといちゃついてたんだって?」「上林君、凄く噂になってるわよ」「花音ちゃんが可愛かったとか」とクラスメイトたちに一斉に話しかけられてしまった。
何だかこうやって微笑ましいものを見る目で見られるとこっぱずかしいけれど、俺と花音のことを何だかんだクラスメイトたちが受け入れてくれていることが素直に嬉しかった。
クラスメイトにからかわれたり、遠巻きに他のクラスの生徒たちに見られたり――落ち着かない一日が終わり、花音がまた俺の教室に俺を迎えに来たので、俺達は一緒に帰宅することにした。
「きー君とこうして一緒に帰るのもよかねー。ねー、きー君、今日はなんばたべたか?」
「んー、特に希望はないけど、スーパー行って決めるか?」
「よかねー、それ。きー君と一緒に夕飯選ぶのも楽しかもんね。考えただけでわくわくすーわ」
スーパーで夕飯を何にするか決めようと誘えば、花音は嬉しそうににこにこと笑った。
花音と一緒に手を繋いでスーパーに向かい、今日の夕飯や明日の朝食などの材料を購入する。
「ねー、きー君、ティッシュ少なくなっとったよね?」
「そうだな。多分、あと一箱か」
「じゃ、買わんばね」
ついでに日用品で少なくなっているものも購入して、帰宅するのだった。
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