恋人になってから初めての学園 ①
「きー君、おはよう」
「おはよう、花音」
今日も今日とて、朝から花音が俺の家に来ていた。俺の寝顔をじーっと見ていたらしい花音は、俺が目覚めて嬉しそうににこにこと笑っている。
朝から花音が作ってくれた朝食を食べる。
「きー君、今日から一緒に登校すっとよね? 私は楽しみやけど、きー君は大丈夫と?」
「大丈夫だよ。花音。俺は花音とずっと一緒に居るって決めたから。だから花音と登校するよ」
「きー君って、結構思いっきりよかよね。そういうとこすいとー」
「ありがとう」
「ふふふ、きー君、てれてんね? かわいかねー」
花音はそんなことを言いながら、俺のことを見る。……俺よりもそう言って微笑んでいる花音の方が可愛いと思うのだが。そう思いながら花音をじっと見ていれば、「どがんした?」と花音が問いかけてくる。
「花音は可愛いなと思って」
「えへへー、すいとー人にそがんいわれっとうれしかねー。私かわいかもんねー」
「ああ、可愛い」
花音が肯定してほしそうな顔をしているので、俺も素直に口にする。そうすれば花音はそれはもう幸せそうに笑った。
花音のこういう表情を見ると、俺は嬉しくなる。
ずっと花音がこうやって笑っていてくれるように俺は全力を尽くしたいなと思った。
花音と登校することに不安がないわけではないけれど、俺は花音と一緒に居ることを選んだのだから。
「そうだ。きー君、小林君、結構がんばっとーみたいよ?」
「小林って、土曜日に会った?」
「うん。小林君、私のファンたちの間で結構幅をきかせているから」
「そうなのか?」
「うん。同じクラスだし、結構私の傍に居る子たちの一人だしね」
小林は結構花音のファンの中でも、有名な方だったらしい。俺は花音のファンがいることは知っていても、花音のファンの中で誰が有名かとかは知らないからな。
そう考えると土曜日に小林に遭遇出来て良かったのかもしれない。凛久さんが居なかったら結構大変なことになっていた気もするが……凛久さんが交渉してくれてよかったと思った。
朝食を食べ終えた後は、俺達は学園に向かう準備を進めた。
花音はにこにこ笑っている。
「花音……学園でもそんな風に笑うつもりか?」
「え、そがんわらっとった? なんかきー君と一緒に学園いけるって思うとうれしかとよねー」
「……なんか素がにじみだしているなぁ。学園でも素を出す?」
「あー……んー、きー君と話しとったらでっかもけど、基本は今まで通りの私でいる予定よ!!」
などと花音は言っているが、多分、花音は素をそのうち出しそうダなと思った。まぁ、花音も『聖母』様ってレッテル張られていたのと、方言だと浮くからとかそういう理由で素は仲良い人の前でしか出してなかっただけみたいだし、素が出ても問題がないのかもしれないが。
でもまぁ……素の花音は魅力的だし、素の花音の屈託のない笑みを見たら男がよってきそうだなと……もやもやしてきた。花音は俺の彼女になったわけで、花音は誰かに迫られてもきっと気にもしないだろうけど。
「んー、きー君、どうしたん?」
「いや、花音の素を見たらもっともてるんだろうなって」
「ふふ、きー君、嫉妬しよっと?」
何だか花音はにこにこと笑っている。俺が嫉妬していることが嬉しいらしい。いやもう、想像だけでちょっともやもやしているとか、俺の心狭いなと落ち込んでしまう。
ソファに座っていた俺の横に花音は腰かけ、「大丈夫よー」と言いながらなぜか俺の頭を撫でる。
「私はきー君が好きできー君と付き合っとっけん、他によってきてもそっちにはいかんよ!!」
「滅茶苦茶花音は嬉しそうだな……」
「嬉しかもん。かわいかし、顔がにやける」
そう言われるので花音を見れば、実際に顔を破顔させていた。
そんなこんな会話を交わしていると時間になったので、花音と一緒に家を出る。ちなみに俺の部屋の鍵をしめていたのは花音である。
「花音、行こう」
そう言って俺が手を伸ばせば花音は嬉しそうに微笑んで、俺の手を取った。
「きー君とこうして学校行くと初めてやねー。なんかよか」
「俺も花音と登校出来て不思議だけど楽しいよ」
花音と一緒に階段を下りて、そのまま学園へと向かう。
登校時間なので、そこそこ同じ学園の生徒がいる。……的場先輩が広めたのを知っているのか、小林が何か動いた結果なのか……、思ったより騒がられてはいなかった。こっちを見てひそひそされていて落ち着かないけどな。
でも花音が隣でにこにこと笑っているので、それを見て安心する。やっぱり花音が隣にいるといいなとそんな風に思いながら俺と花音は学園まで歩いて行った。
幸いなことに誰かに何かを放しかけられることはなかった。でもまぁ、学園についたらもっと騒がしくなるかもしれないけれど、それは覚悟の上である。
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