食事会の前に

「きー君、きー君、ちょっと緊張すーね」

「珍しく緊張しているのか?」

「うん。いや、ワクワクもしとーよ? 百合さんときー君のお父さんと一緒に会えると思うと、嬉しかもん。やけどね、ちょっと緊張すーっていうか。百合さんとは仲良しやし、大丈夫だと思うけど、きー君との仲、認めてくれないとかなかかなーとか」

「大丈夫だろう」



 何だか花音は、俺の両親と初めて会うので電話やメールなどでやり取りしているとはいえ、少し緊張してきたらしい。



 今日は俺の親と花音の親もやってきての食事会である。ちなみに母さんと父さんは空港から予約している食事処に直行で向かうらしい。咲綾さんたちもそうである。



 その後に両親は俺の家に泊まることになっているので、どちらにせよ、花音とも俺の両親もずっと過ごすことになりそうな気がする。父さんの仕事の関係で一週間ぐらいしか日本にいないらしいので、観光にいったりもする予定らしい。



 母さんと父さんは夫婦になって長いが仲がよく、デートとかにもいっている。俺ももっと大人になっても花音とデート出来るぐらい仲良しなままでいれたらいいなと思う。



 やっぱりなんというか俺はそういう想像をしてしまうのは、花音のことを大切だと、ずっと一緒に居たいと思っているからだろう。


 少し緊張した様子で騒いでいる花音を見ると何だか可愛いなぁ、好きだなぁってそういう気持ちが溢れてくる。



「花音は俺が選んだ恋人だから、母さんと父さんは反対なんてしないよ。花音は可愛いし、花音を嫌うような人なんてそうそういないだろう」



 それは紛れもない俺の本心である。

 その言葉に花音は口元を緩ませる。なんというか、口元を緩ませてだらしない表情でも花音だと可愛いなぁって思う。



「えへへ、きー君、言動がイケメン! かっこよか!!」

「本心いっただけだぞ」

「でもかっこよか! それに食事会だからかちょっと大人っぽい服装してるのいいよね」

「それは花音もだろう。何だかいつもと違った雰囲気で、良いと思う」

「ふふ、でしょー。私、何でも似合う完璧美少女やけんね!」



 食事会に参加するからか、花音は大人っぽいワンピースを見に纏っている。これは俺と一緒に買いにいったものである。なんだろう、ネックレスも身に着けてちょっと実際の年齢よりも大人に感じる。



 こういう服装をしている花音も可愛いと思う。俺は花音の違った一面にすぐにドキドキしてしまう。



 ちなみに互いの服装は互いで選んだ。


 やっぱり花音は何でも似合うし、色々着せたくなる。大学生になってアルバイトとかしたら色々花音に洋服買いたいなとか思ってしまう。俺の選んだものを花音が身に着けていると、なんというか、花音が俺の彼女なんだなって実感するというか、独占欲を感じるというか……とりあえず嬉しいものだ。



 自分にこういう感情があるなんて花音と付き合うまで知らなかったなとも思う。



「ドキドキすーけど、百合さんたちと仲良くなれたらよかなぁ。そしたらなんかきー君ともっと近づける気がすっし!」

「母さんと父さん、此処泊るからその間にもっと仲良くなれるだろ」

「そうやね。ふふ、美味しい料理を沢山作って百合さんたちの胃袋もつかめたらよかなぁ。きー君の胃袋ももっと掴んで、離れられんようにしたかし」

「それ俺本人に言わずにやった方がいいんじゃないか? あと花音の料理はおいしいし、もう掴まれてると思う。徐々に俺好みになっているし」

「宣言して、なおかつ胃袋を掴むことが出来たらかっこよくなか? 有言実行!! ってやつよ。ふふ、それにしてもきー君の胃袋をつかめとるんやったらよかった!! もっと掴むけんね!!」



 なんだかにこにこと笑って花音はそんな宣言をする。



 こうして話している間に花音の緊張もすっかりほぐれてきているようだ。でもまぁ、緊張している花音も可愛いし、いいかなって思うけど。

 俺が思ったよりも緊張していないのはやはり一度花音の両親に会っていて、年末年始に良くしてもらったからだろう。



「ねーねー。きー君さ、私百合さんたちとめいいっぱいなかよくなっけんね。百合さんにきー君の相手として認められるようにがんばっけんね」

「いつも通りで大丈夫だと思うけどな」

「だってすいとー人の両親に好かれたかって思うのは当然やん」



 なんていってどや顔をする花音の頭を思わず撫でてしまう。



「えへへー、って駄目よ。きー君!! 折角整えた髪がぐっちゃってなるやん」



 花音は幸せそうな顔を浮かべた後、はっとなったようにそう言った。確かにその通りなので頭を撫でるのは一旦やめる。



「じゃあ、花音行くか」

「うん!!」



 時計をちらりと見れば、そろそろ家を出なければならない時間だったので、花音に手を伸ばす。そうすれば花音が俺に手を重ねる。

 そして手をつないだまま、俺たちは家を出るのであった。


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