食事会①
「此処か」
「うん……」
手を繋いで、電車で何駅か乗り継いで、目的の食事処にたどり着く。なんというか、こういうちゃんとした所で食事ってあまりしないから何だか落ち着かない。
花音もキリッとした顔をして落ち着きがない様子である。
こういう表情の花音も何だか可愛いなと、落ち着きがない花音を見ると俺は少しだけ冷静になってしまった。
「花音、行こうか」
「うん。もうお母さんたちついとーってきとったよね」
「ああ。俺の母さん達はまだらしいけどな」
こちらに向かう途中に連絡が来ていて、もう咲綾さんも凛久さんも先についていることが分かっている。俺の両親はまだらしいけど。
花音と手を繋いで中へと入って、予約している旨を伝えて案内される。案内された和室に入れば、咲綾さん、栄之助さん、凛久さんがいた。
「お久しぶりです。咲綾さん、栄之助さん。凛久さんはこの前ぶりです」
「久しぶりね。喜一君。花音と付き合いだしたのよね。おめでとう」
「……久しぶりだな」
というか、よく考えたら年末年始の時は花音と付き合ってなかったから、花音と付き合いだしてから咲綾さんたちに会うのは初めてか。
「喜一も花音も似合ってるな」
「……うん、お兄ちゃんも似合ってる」
「なんだ? 花音、緊張しているのか?」
「もー、お兄ちゃんは他人事やけん、緊張しとらんとやろ? お兄ちゃんも恋人の両親とあうんやったらちょっと緊張すーよ?」
「俺はどうだろうな? それにしても緊張している花音もかわいかなー」
そう言いながら花音の頭を撫でようとして避けられていた。まぁ、折角綺麗にしている髪をぐちゃぐちゃにされたら嫌だろうしな。
「喜一君、花音が幸せそうに喜一君との日常を報告してくれているのよ。花音と仲よくしてくれてありがとうね」
「いえ、こちらこそ花音と一緒で幸せなので……」
「ふふ、花音も喜一君も仲良しでいいわね。ね、栄之助さんもそう思うでしょう?」
「……ああ」
頷きながらもこっちをじっとみる栄之助さん。
ただ何か怒っている風ではないので、問題はないと思う。そもそも本当に俺と花音が付き合うのを認めないとかならこの食事会に来ないだろうしな。
「ところで花音はそんなに緊張しているの? 喜一君のお母さんと仲よくしているのでしょう?」
「そ、そうだけど!! お母さん、私、きー君の両親に会うとはじめてとよ! 気に入られなかったらどうしようって思っちゃって」
「ふふ、花音は可愛いわね。これだけ可愛い花音なら大丈夫よ。ね、喜一君」
「ああ、大丈夫だぞ。花音」
咲綾さんが言うように本当に花音が可愛い。思わず口元が緩んでしまいそうだ。
俺よりも花音は母さんと連絡を取り合っているし、母さんはそもそも気に入らなければこんなに連絡を取り合わないだろうし。
花音は緊張した様子でスマホを取り出し、見る。
「あ、百合さんたちまだこんって。あーもうはよこんかな? はやく来てくれた方がこの緊張もなくなっとにー」
なんていいながら隣に座ってあたふたしている花音はかわいらしい。
思わず皆で微笑ましい目で花音のことを見てしまった。
花音のあたふたとした様子にしばらく和んでいると、母さんと父さんがやってきた。
「初めまして。上林百合です。よろしくお願いします」
「初めまして。上林敬一です」
母さんと父さんに会うのは久しぶりである。
それからそれぞれ挨拶をする。というか、今いる全員と知り合いなの、俺だけだな。
「天道花音です!! よろしくお願いします。喜一さんにはよくしてもらってます!!」
「ふふ、花音ちゃん、きー君呼びでいいわよ?」
「はい!!」
「あら? なんだか緊張してる?」
「ちょっと緊張してます!!」
なんだか母さんと話している花音は緊張していることを素直に口にしていた。何とも花音らしい。
「天道さん。年末年始には喜一がお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ喜一君には花音と仲よくしていただいていてとてもお世話になってますもの。それに喜一君が来てとっても楽しかったですから。ね、栄之助さん」
「ああ」
父さんは咲綾さんたちと会話を交わしていた。
「喜一、花音ちゃん、可愛いわね?」
「うん。可愛い」
「あらあら、素直ね? 喜一は恋人が出来るとこんな感じなのね?」
……ちょっと楽しそうに口元を緩めて、からかうようにそんな風に言われたのは恥ずかしかった。だけれど、花音が嬉しそうなのでよしとしよう。
花音はなんだか口元を緩めて、嬉しそうだ。
「えへへーうれしかー。はっ、百合さん、今のなしで!!」
「なしっていうのはもったいないわよ。方言の花音ちゃん可愛いもの。私の前ではいつも通りでいいのよ?」
「花音は気に入られたいって緊張してるって言ってた」
「そうなの? もう十分可愛くて気に入っているわよ。それに喜一が私たちに会わせるぐらい真剣にお付き合いしている子だもの。私は自分の息子を信頼しているわ。喜一が選んで、付き合っている相手なら気に入らないはずないわよ」
真っ直ぐな言葉で母さんがそう告げるから、何だかちょっと恥ずかしくなった。まぁ、嬉しいんだけど。
そんな会話を交わしながら注文していた料理がやってきたので、皆で食事を開始する。
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