文化祭③
さて、文化祭二日目が始まった。今日は凛久さんが俺と偶然会った風に演技をするからそれに合わせてほしいと言われている。……俺にそんな演技が出来るかどうかはともかくとして、凛久さんはとことん上手くやりそうな気がする。凛久さんも花音と同じで完璧主義だし、きっとうまくやるだろうし。
ゆうきにだけは凛久さんがやってきて見て回ることは告げてある。あとは花音が俺が接客している時間帯に来るっていっていたから何時頃くるかだよな。凛久さんが同じ時間帯にきたら色々とややこしいことになりそうだし。
そんなことを考えながら朝の接客業務をする。そうしていれば急にあたりが騒がしくなった。
俺が顔をあげれば、ざわめきの原因が分かった。花音がいる。花音のクラスメイトたち――比較的目立つグループの生徒たちに囲まれて、やってきた花音は微笑みを浮かべている。
家にいる時とは違う落ち着いた笑み。学園にいる花音をこれだけ真っ直ぐ、間近で見るのは初めてである。花音は美しい笑みを浮かべていて、周りの生徒たちは花音に対して一生懸命話しかけている。
「花音ちゃん、チョコバナナ買ってくるね」
「いえ、自分で買うので大丈夫です」
花音はそう言いながらちょうど開いていた俺の前までやってくる。
「チョコバナナを二つください」
ただそれだけいって、花音が俺のことを見る。
やっぱり雰囲気が違い過ぎて、家にいる花音とは別人のように思えてしまう。きっとこれが素の花音ならば、「きー君、買いに来ましたよ」などと笑顔で告げるだろうが、今の花音はすました顔をしている。
花音にチョコバナナを渡すと、「ありがとうございます」と花音に告げられる。そのまま花音はクラスメイトたちと共に去っていった。
花音が去っていった後、クラスメイトたちは「天道さんやっぱり可愛いわ」とささやきあっていた。
「上林君、天道さん可愛いよね」
「そうだな」
明知の言葉にそう答えながら、俺は次に凛久さんがいつくるだろうかというのをそのことを考えていた。
それにしても花音がくるときと凛久さんがくるときで時間がずれていて良かった。
凛久さんとは午後にある二回目の公演を見に行くことになっているので、まだ時間はあるが、いつ来るんだろうかなどと思っていたら接客の時間が終わった。そしてまだ凛久さんが来ていないからどうしようか、ぶらぶらしようかと考えている中で目の前から凛久さんが歩いてきているのが見えた。
凛久さんは美形なので、周りの人たちがキャーキャー騒いでいる。ここからどうするのだろうかと思っていたら凛久さんとぶつかった。……これはあえてぶつかってきたのだろうか?
「すまない」
凛久さんはそう言いながら初対面を装って話しかけてくる。凛久さんが綺麗な顔をしているというのもあって、注目されていて居心地が悪い。
「なぁ、君、此処の生徒か?」
「はい」
下手に色々言うと、凛久さんと口にしてしまいそうなのでとりあずそれだけ答える。凛久さんはそれに対してにこりと笑っていう。
「そうか。俺は一人で来たんだ。よかったらお勧めの場所でも教えてくれないか?」
「はい」
……そんなわけで俺はにこやかに笑う凛久さんと一緒にぶらぶらすることになった。
それにしても凛久さんといると花音のことをぽろりと零しそうなので気を付けなければならないだろう。
「あれ、上林、誰だ、その人、お兄さんか?」
凛久さんと一緒に歩いていたら、倉敷たちと遭遇した。
「いや、違う。ちょっと一緒に回ることになったさっきあった人だ」
「へぇー」
そう言いながら倉敷たちは凛久さんを見る。
「俺は凛久だ。一人で此処に来ていてな。喜一と回ることにしたんだ」
「そうなんですね。うちの文化祭は見どころが多いので楽しんでくださいね」
倉敷はにこにこと笑って凛久さんにそう言った。凛久さんはそれに「ああ」と答えていた。
……凛久さんが名字言わないのは、花音の兄だと知られたらややこしいことになるかもしれないと思っているからだろうか。
倉敷たちと少し話した後、俺は凛久さんと一緒に昼食を食べに向かった。
昨日食べれなかったものを食べに行こうと、昨日のうちにチェックを入れていた場所に凛久さんを連れてきた。
凛久さんも一緒にいるからというのもあって、接客をしている女子生徒たちや、外から来ている女性たちがこちらをちらちら見ていた。
美男子だとこれだけ注目を浴びるのかと落ち着かない。……というか、常にこんな視線を浴びている凛久さんも花音も凄いなと思う。俺はこんな風に注目されるのは慣れない。
「サービスです」
しかも凛久さんがいるからかデザートをサービスされた。ケーキである。ただでこんなものをもらえるなんてと凛久さんと一緒に回っていて良かったと思った。
その後は凛久さんが興味を抱いている展示や出し物を一緒に見て回った。途中で凛久さんがナンパをされたりしていたが、凛久さんは「ごめんね」と笑顔を浮かべて断っていた。
……断っていても断られた女性たちが「は、はい」と答えて固まっていた。美男子の力ってすごいなと思った。
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