母親からの電話

「花音、それは……」



 俺が花音のお持ち帰り発言に対して、返事を返そうとした時に、俺のスマホが鳴った。こんな時に誰だと画面を見れば、母さんだった。

 久しぶりの母さんからの電話だった。




「ごめん、花音、電話なったから出る」

「うん。よかよー」



 笑顔の花音の言葉に、俺は電話を出る。




『喜一、元気にしてる?』

「うん。母さん、元気だよ」



 母さんも相変わらず元気そうだ。海外に居る母さんと父さんとは時差の関係もあって、たまにしか電話がかかってこない。電話以外でやり取りをすることが多い。

 久しぶりに聞いた母さんの声に、両親に会いたいなという気持ちにもなる。まぁ、海外にいるから早々あえはしないのだけど。




『喜一、最近は連絡もないけど、どうしているの?』

「どうって、普通に……」



 と、そんな風に母さんに返事をしていれば、突如として「きー君、きー君のお母さんですか?」と花音が声をあげた。




 あ……と思った時には遅く、花音の声はしっかり母さんに聞こえていた。




『あら? 女の子の声? 喜一、女の子を家にいれているの? 彼女かしら?』




 母さんが食いついてしまった。母さんって花音みたいな元気系ではないのだけど、恋愛話とか好きなんだよなぁ……。俺に彼女が出来るの楽しみにしている風だったし。



 というか、横の花音がキラキラした目でこっちを見ているのだけど。変わってほしいのだろうか?

 どうしようかなどと考えながら、母さんに返事をする。




「あー……彼女じゃない。ちょっと仲よくしている後輩」

『あら、でも彼女ではないにしても仲良しなのでしょう。それだけでも嬉しいわよ。よかったら変わってくれない?』

「私は話したいです!!」



 俺が答える前に母さんの声が聞こえていた花音が即答していた。変わってほしいという母さんと花音に逆らうことも出来ず、スマホを花音に渡す。




「初めまして。天道花音です!! 喜一さんにはお世話になってます!」



 花音は元気よく、母さんと話し出す。母さんに話しているからか、きー君呼びではなく、喜一さんと言っていて、不思議な気持ちだ。




「あ、はい! きー君にはお世話になってます。私はきー君と仲良しです」




 きー君と呼んだらとでも言われたのかまたきー君呼びに戻った。




「私ですか。はい、きー君のこと大好きですよ。きー君の声が大好きです」



 ……花音は母さんに何を言っているんだ?



「いえいえ、こちらこそ。きー君と一緒にいると楽しいですから」



 母さんの声は聞こえないので、何を話しているか分からないが、花音は楽しそうだ。



「あ、そうだ。百合さん、きー君のことなんですけど、お正月に私の実家に連れて帰ってもいいですか?」



 花音が俺を連れて帰っていいかを聞いていた。



「わぁ、ありがとうございます!! じゃあ、きー君は責任をもって私がお持ち帰りします!!」



 何だか勝手に俺の年末の予定が決まっている気がする……。



「はい! じゃあ、きー君に変わります」



 ようやく花音が俺にスマホを返してくれた。



「あー、母さん、変わったよ」

『喜一、花音ちゃん、凄くいい子だわね。私気に入ったわ』

「うん。花音は良い子だよ。俺も一緒にいて楽しいし」



 俺が母さんにそう言っていれば「私も楽しいですよー!!」と嬉しそうな声を花音が隣であげている。



『そうなのね。お正月も花音ちゃん家にお世話になるんでしょう? 楽しんでおいでね』

「……決定事項にされてるし」

『まさか、花音ちゃんに誘われて嫌ってことではないわよね?』

「嫌ではないけど、こう……迷惑じゃないかと」

『大丈夫よ。花音ちゃんは大賛成って言っていてもの』



 ちなみに横で花音は「全然オッケーですよ!! 私がきー君と一緒にお正月すごしたかとだもん」と大きな声で言っている。



『じゃあ、喜一、また電話するから花音ちゃんと仲良くね』



 そしてしばらく会話を交わして、母さんとの電話を切った。



「花音、本当にいいのか?」



 そして隣に座る花音を見ながら、本当に良いのかと俺は問いかける。



「いいにきまってますよー。お兄ちゃんはよかっていうし、お母さんもよかっていうもん。やけん気にせんでよかよ。お父さんも私たちが押し切ればいいっていってくれるもん」



 いや、父親にはまだ言っていないのかよ……と花音を見てしまう。



「そがん顔せんでくださいよ。ちゃんとお父さんにも許可とっけんさ。ね、うちん家来ようよー。私きー君に来てほしかもん!!」

「うーん、じゃあちゃんと許可が出来たら……お世話になるよ」

「やったー。じゃあちゃんと説得すっけんね!!」



 そして花音は嬉しそうに、花が咲くような笑みを溢すのだった。


 

 何だかこのまま本当に年末年始は花音の実家に行くことになりそうだと、そんな風に考えるのだった。


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