花音の頼み事

 日曜日は、花音と凛久さんと三人でのんびり過ごした。先週、凛久さんはこちらに来れていなかったから、というのもあり何だか楽しそうにしていた。花音によく話しかけていたし。



 それと同時に、的場先輩の文句も言っていたけれど。



 そして週明けの学園では、花音に的場先輩が話しかけていて、それで学園は騒がしくなっていた。



 一年生の花音と、三年生の的場先輩だと、よっぽどのことがないと関わったりはしないだろうけど、的場先輩が進んで花音に話しかけたのだ。



 学園でも人気な二人が会話を交わしている様子に、倉敷たちも盛り上がっていた。

「花音ちゃんと的場先輩が仲良しっていいな。目の保養だよな。上林」

「そうだな」



 ……文化祭以来、俺はすっかり倉敷に花音のファン認定されているので、倉敷は花音の話題を俺に滅茶苦茶ふってくる。ふとした時に、ぽろりと家での花音の様子を漏らさないか不安に思いながらも俺は倉敷と話していた。




 それにしても的場先輩は昼休みに花音を連れ出して、二人でどこかで食事を取ったりもしているみたいだ。花音が楽しそうに放課後、語っていた。





「的場先輩良い人やったよ。きー君の話めっちゃしよるんよ。きー君の話、沢山出来てうれしか」

「そうか。よかったな」



 結構俺の話をしているらしかった。あとは共通の話題として凛久さんの話もしているらしいが、的場先輩の方も凛久さんの事をよくは言っていないらしい。やっぱり二人とも似ているのではないか……と思う。

 そしてやっぱり花音は人を簡単に信頼しすぎだと思う。すっかり的場先輩とも仲良しになっているようだ。的場先輩は悪い人ではないと思うから大丈夫だろうけど、人を簡単に信用する花音は心配になる。


 いつか人に騙されるんじゃないかと心配して花音を見れば、



「きー君、私はきー君との方が仲良しやけんね?」



 となぜか何を思ったのかそんな発言をされたものだ。

 そんな花音の放課後の言葉を思い出しながら、俺は倉敷の語る花音の話に頷くのであった。





 今週は、花音と的場先輩が仲良くなったということで学園が騒がしくなっていたものの、それ以外は平穏に過ぎて行った。












 さて、ある日の放課後のことである。


「きー君、おかえりなさい!!」




 その日も花音は、俺よりもはやく帰宅していて、制服姿のまま俺のことを花音は迎え入れる。




「いつも花音は帰るのはやいよな」

「私さっさと帰宅するもん。きー君との放課後楽しかけん、はよかえろーって思っとるけん」



 花音は俺と過ごす放課後が楽しいらしく、そんなことを言っていた。そんな花音と共にソファに腰かける。




「あ、そうだ、きー君!!」



 テレビを見ていたら、急に花音が隣で声をあげた。花音の方を見れば、花音は何かを思いついたのか、キラキラした目で花音はこちらを見ている。




「あんさ、この前のトランプの頼み事やけど」



 花音はこの前のトランプで勝利した時の、頼み事のことを口にした。

 そういえば、後ででいいかと言われて結局その日は頼みことを聞かなかったんだった。




「あー、なんか思いついたのか? いいぞ。言って見ろ。叶えられることなら俺でいいならやるぞ」

「ふふ、やっぱきー君、甘やかし上手やね。じゃあ、いうよ」




 花音はそう言って、一旦、口を閉じてから勢いよく口を開く。




「私、きー君をお持ち帰りしたか!!」

「はい?」



 花音が何を言っているか分からないことはよくあるが、過去最大で意味が分からない。何を言っているんだろうか。



 お持ち帰りしたい? 俺を?

 何の話をしているんだ?



 隣の花音の部屋にお持ち帰りするってわけではないと思うだろうし……そう思いながら花音を見れば、花音は相変わらず楽しそうに笑っている。



「あんね、きー君、お正月、一人で此処で過ごすっていいよったやん?」

「ああ。そうだな。それが……?」



 しかも急にお正月の話をしだして、俺は本格的に花音が何を言おうとしているのか分からなくなっている。


 意味が解っていない俺をおいて、花音はどんどん言葉を言い放っていく。



「私、きー君が此処で寂しく一人でおっとはなんかなーって思いよったん。それでね、私が両親とこ戻らずに残ろうかって思ったけど」

「いや、それはいいっていっただろ」

「そう! きー君は優しかけん、私にかえりーっていうやん。でも私はそれが嫌なんよ。それで名案を思い浮かんだと! きー君をお持ち帰りすればよかって」

「いや、だからそれが意味が分からないんだって」

「わからん? あんね、きー君を実家に連れて帰ろうっておもいよっと。ね、きー君、私の両親とこ一緒かえろうよ。それで私の家族と一緒に年末過ごさん?」

「はい……?」

「ね、それが私の頼み事! きー君、独りぼっちにしたくなかし、家族の元にもかえりたかけん、それが一番よかって思うんよね」



 どうやら花音は、俺を年末に実家に連れてかえりたいらしい。それでお持ち帰りしたいなどと良くわからないことを言ったようだ。

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