先輩を出迎える ③
「ババ抜き大会開催ですよー」
「大会って、商品とか何もないだろ」
「じゃあ、勝った人が何か頼み事が出来るってことで!! 大会みたいにしたほうが楽しかやろー?」
何故か普通にババ抜きをするだけなのに、大会と名付けているらしい。買った人が何か頼み事が出来るようになってしまったが花音が楽しそうなので、よしとする。
凛久さんも的場先輩も花音が楽しそうだったからか意義を出せなかったしな。
さて、俺の手の中には、ババはない。一枚のババが誰の手札の中にあるのか。花音も凛久さんも、キリッとした表情で真剣で、誰が持っているか分からない。的場先輩も話したの二回目だし、よく分からない。
そう思いながら順序、カードを引いて行っていれば……、俺は凛久さんの手からババをとってしまった。うわ、顔色一つ変えなくて全然分からなかった。凛久さんも負けるのとか嫌いそうだからなぁ……。俺からカードを引くのは花音である。
花音はじーっと、俺の手札を見て、一枚引く。あ、ババ引いていった。
それからどんどん、順番に引いていく。最後の二枚になった時、俺の手にはババはなかった。今、誰の手の中にババがあるのかは全く分からなかった。
一番真っ先に上がったのは、
「やったー、私が一位!!」
元気よくそう答えた花音である。
ババ抜きをしているときは表情を変えずにいたのだが、終わった途端いつも通りである。
その後、凛久さんが二位であがり、俺もなんとか三位であがれた。
「負けたわ……」
的場先輩は落ち込んだ様子でそう言っていた。
「花音、頼み事が出来るって、何を頼みたいんだ。勝ったんだから何でも言っていいぞ。俺は花音のためなら何でもしてやれっけん」
「んー、お兄ちゃんはよかかな」
「な……花音、俺はよかってなん」
「お兄ちゃんじゃなくてきー君に頼み事したかもん!!」
花音は凛久さんへの頼み事はいらないとそう口にしてからこちらを見る。
「花音、何を頼みたいんだ?」
「そーねー。なんにしようかなー。きー君に頼みたかこと……。んー、すぐには思いつかんけん、後ででよか?」
「いいぞ」
花音なら俺が本当に嫌がることは頼んできたりしないだろうから、俺はそう答えておいた。
そんな風に俺と花音が会話を交わしていると、
「はぁ、本当仲良しねぇ。いいわぁ……」
と、的場先輩は真剣な目でこちらを見ていた。
「そうだ。ねぇ、花音ちゃん、私、学園でも花音ちゃんに話しかけていい?」
「駄目だ」
何故か的場先輩の問いかけに凛久さんが答えていた。花音は「きー君に何頼もうかなー」とうきうきした様子だ。
「って、何で天道さんが言うんですか。私は花音ちゃんに聞いているんですよ」
「俺は学園の花音に話しかける事が出来ないのに、あんたのような怪しい女が話しかけるなんて許さん」
「何ですか。シスコンすぎますよ。というか、天道さん、うらやましいんですか? 怪しい女ってひどいですし。私は怪しくなんかありません。ただこっそり育んでいる秘密の関係を見守りたいってだけですよ。というか、天道さん、私にそんなこと言っていいんですかー?」
「は? なんだ」
「睨みつけるのやめません? 天道さんさえ、許してくれるなら変わりに可愛い花音ちゃん週報でも天道さんにお伝えしますよ?」
なんだ、その謎の闇取引みたいなの。
これは突っ込み待ちなのだろうか……と一瞬思ったが、的場先輩も凛久さんも真剣な様子である。
「な……そ、それは……」
「欲しいんですね? シスコンな天道さんからしてみれば、普段見ることが出来ない花音ちゃんの学園での様子とか知りたくてたまらないんですよね?」
「くそ……本当に花音や喜一に何かしたりはしないんだな?」
「しませんってばー。ほら、はいって頷いてくれたら花音ちゃん週報を毎週お送りしますよ」
そう言いながら的場先輩はドヤ顔である。
そして凛久さんは結局、的場先輩の言う「花音ちゃん週報」を知りたいのか頷いていた。
勝手に取引されているが、本人はいいのだろうか……。
「花音、いいのか。勝手に闇取引みたいにされてるぞ」
「まぁ、私は的場先輩に話しかけられてもよかし。知らん人に情報渡されるならいややけど、お兄ちゃんならよかかなーって」
花音はあっけからんとした様子でそう言った。いいのか……俺ならちょっと微妙な気持ちになりそうなんだが。
結局、その「花音ちゃん週報」のために的場先輩と凛久さんは連絡先を交換していた。
その後、すっかり夕方になっていたので、
「じゃあ、私は帰るわね。花音ちゃん、学園でもよろしくね。上林君は邪魔にならない時でいいからまた、此処に招待してね」
的場先輩はそう言って帰っていった。
ちなみに花音と凛久さんは帰る気がなく、また今日も泊まる満々のようだった。
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