帰り道に、拾った子犬④
「ねぇねぇ、きー君。こういうフォントだと目についたりすっかな?」
花音が楽しそうに俺に向かってそんなことを言う。
花音は家からノートPCを持ってきて、せっせとチラシ作りに励んでいる。
正直、俺はそこまでチラシ作りとかに詳しくない。やったことはないし、目につくか目につかないかぐらいしか判断材料がない。
「もうちょっと文字をおおきくしてもいいんじゃないか? その方がもっと目立つ気がする」
「それもそうやねぇ。じゃあ……こうして」
花音は雰囲気を出すためなのかわざわざまた伊達眼鏡をかけている。
こういう風に形から入ろうとする花音が可愛くて、見ているだけで笑ってしまう。
「きー君、こうだとどう? みやすくなか?」
「そうだな。見やすくなったと思う。……連絡先は花音のスマホではなく、俺か凛久さん。あとはフリーのメールアドレスとかにしておこう。今も余計な連絡来ているんだろ?」
「うん。なんか子犬のこと以外で連絡して来ようとする人おっとよ。そういうのは丁重に断っとるけどね。あまりにもしつこかったらちゃんと対応すーよ!! でもまぁ、関係ない話せんようにーって言ったら結構皆ひきよっけど。一旦、お兄ちゃんの連絡先チラシに載せていいか聞いとく!」
花音は自分の見た目が良いことも、周りから好かれていることも自覚している。だからこそ、自衛はちゃんとしている方だと思う。とはいえ、俺と付き合いだして以降は学園でも素を出しているし、今回は子犬の引き取り先探しをしようと張り切っているのもあってちょっと油断していたのだろう。
子犬の件で連絡先を教えたはずが、他のことで連絡してくる人もいるらしい。花音が断ると今の所引いてくれているみたいだけど……まぁ、もっとチラシを配って連絡先をもっと教えるのならば花音への連絡にはしない方がいいだろう。
世の中、そこまで悪い人間ばかりではないと思っているけれど、ちゃんと警戒していた方がいい。
「そうだな。でも凛久さんもかっこいいから、その連絡先ってだけでも大変じゃないか?」
「んー。まぁ、そうかもしれんね。お兄ちゃんが嫌って言ったら、ちょっと考える」
凛久さんも美形で、女性関係で苦労もしている。だからいいのだろうかとちょっと思った。あとは的場先輩的には凛久さんの連絡先が広まるのは心配ではないのかとか。
俺はそう考えていたのだけど、凛久さんは花音の頼みだからとすぐに了承したようである。
「ええっと、じゃあお兄ちゃんの連絡先を載せて……」
「この番号って俺が知っている奴と違う気がする」
「お兄ちゃん、スマホ別に持っとるんよ。プライベート用と、人に教えてもいい用で。きー君が知っとるとはちゃんとプライベート用やけんね」
「なるほど。それならいいな」
「まぁ、その人に教えていい番号も誰にでも教えているわけじゃなかっぽいけど。まぁ、お兄ちゃんがよかっていいよっけんよかとよ」
花音がにこにこと笑いながらそんなことを言う。
花音と凛久さんはそれだけ周りから好かれている存在だから、連絡先を知りたがっている人は多くいるのだ。だから大変なんだろうなと思う。
「どれだけ連絡来るようになるんかなぁ。良い飼い主を見つけられたらよかよねぇ。なんかこうやってきー君と一緒にチラシ作ったりすっと楽しか!!」
花音は作成を進めているチラシを見ながら、楽しそうに笑う。
花音はチラシのフォントとか、飼い主募集の文章を整えている。読みやすいようにするにはどうしたらいいかとそれを一生懸命考えている花音は可愛い。
チラシ作りを進めた後、夕食作りを始める。
今日は花音が食べたいと言っていたので、カレーを作っている。
「きー君、上に目玉焼きをのせよー! こういうののせるとまた違った感じで美味しかよねぇ」
「うん。カレーって色々のせるとまた違う楽しみ方出来るよな」
「うん!! おおめに作るけん、しばらくカレー楽しめる!!」
花音とそんな会話を交わしながら、カレーを作り、夕食を食べる。
食事をしながら花音は横にPCを広げている。
「花音、それは食事を終えてからやった方がいいぞ」
「はっ、そうやね! 早くチラシ作りたいと気持ちが強かったけれど、ちゃんとご飯食べてから続きやる!」
俺の言葉に花音は、そう答えるのだった。
夕食を終えた後、またチラシ作りをして子犬のこと話す。
「これでどんくらい飼い主候補くっかねー。よか人が見つかってほしかけど。このチラシで子犬が幸せになってくれたらよかなー」
折角こうやって飼い主を探しているのだから、あの子犬が幸せに暮らせる場所が見つかればいいとそう思ってならないのだった。
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