帰り道に、拾った子犬⑤
翌日、学内のパソコンルームに行って印刷を作ってきたチラシの印刷をする。
そのためいつもより朝早い時間に学園に来ることになった。正直まだ眠気はとれない。
「きー君、眠そうやねぇ。かわいかねぇ」
花音は朝から元気である。いつもより早起きして少し寝ぼけ気味な俺に向かってにこにこ笑っている。
「まだ、ちょっと眠いんだ」
「ふふっ、起こすけん、ちょっとねとってもよかよー? 私、きー君の寝顔みとると幸せな気持ちになるけんね」
「……いや、起きておく」
花音は本当に俺のことを甘やかそうとする。流石にここで仮眠をとるのもあれなので、起きておく。
「きー君は頑張り屋さんやねぇ。疲れとる時はちゃんと寝てよかけんね?」
「花音は俺を甘やかそうとしすぎだよなぁ。花音に褒められるのは嬉しいけれど」
「ふふっ。だって私にとってきー君はすごか人やけんね? 大好きな人を褒めるのは当たり前のことやしね。というか、きー君も私のことを甘やかしとるけん、お互い様よ?」
花音は心の底から、本心で俺にそう言っているのが分かって心地よい気持ちでいっぱいになった。
チラシの印刷を終えた後は、教師から許可された場所にチラシを張っていく。
途中で他の生徒たちも手伝ってくれた。やっぱり花音が何かやっていると目立って、人が集まってくるのだ。
子犬を飼うことに興味を持ってくれる人も多く、声をかけてくる人も多い。
「花音ちゃん、チラシ見たよ」
「花音ちゃん、あのチラシは自分で用意したの? 流石花音ちゃんだね」
そうやって声をかけてくる生徒たちは、全員が笑みを浮かべている。花音が行っていることだからこそ、こうやって人が集まってくるんだろうなと思う。例えば俺一人で子犬の飼い主探しをしていたら、こうはならなかっただろう。
花音は一人一人ににこにこ笑って対応している。これだけ沢山に声をかけられても嫌な顔一つしないのが花音らしいと思う。
その後、俺と花音はそれぞれの教室に向かった。花音は「きー君と同じ学年だったらよかったとになぁ」と名残惜しそうにしていた。俺も花音が同じ教室にいたら楽しかっただろうと思う。
「花音、また後で」
「うん。お昼にね!」
そう言って花音と別れた。
自分のクラスの教室に入ると、俺と花音が朝からチラシを張っていたことはクラスメイトたちに知られていた。
「相変わらず上林君と花音ちゃんは仲よさそうだね」
「あのチラシ、いつ用意したの?」
そんな風に声をかけられて、一つ一つ答えていく。
その後、授業が行われたわけだけど教師の中にも子犬を引き取りたいという人が居たので、話をした。
気難しそうな数学の先生なんかも声をかけてきてちょっとおどろいた。
人とはそこまで喋らなくても、動物が好きみたいな人は結構多いのかもしれない。というか、こうやって子犬の飼い主探しをしていると予想外の人から声をかけられたりして、会話がはずんだりして面白い。
自分の家には犬が何匹かいるので、飼うことは出来ないけれど子犬を育てるならこういう風がいいとか、お勧めのペットショップについて教えてくれたりとか、そういうことで声をかけてくる生徒や教師もいる。
「なんだかここしばらく私のことをちらちら見とった生徒おったとけど、子犬のことで話しかけたかったらしか! なんかこうやって今まで話してこんかった人が話しかけてくっと嬉しかねー」
昼休みに花音に会ったら、そんなことを言って笑っていた。
花音は話しかけやすい雰囲気があるが、人気者である花音にいざ話しかけに行くとなると躊躇してしまう人もいるのだろうと思う。
そういう花音に話しかけるのを躊躇っていた人たちもちらほら、花音に話しかけてきているようである。
花音は今まで話してこなかった生徒たちと話せることも嬉しいようである。
その子はずっと犬の話ばかりしていたらしい。どうやら住んでいる場所はマンションなので、犬を飼うことは出来ていないが飼うことにとても憧れているのだとか。
大人になったら一軒家に住んで犬を飼うのが目的なので、犬の飼育に関する知識は山ほど持っているらしく色々教えてもらったんだそうだ。
「そういう一つのことに夢中で情熱持っとるとってよかよねー」
「そうだな。その子の家が犬を飼えたらよかったのにな」
「うん。私もそう思う。でもマンションの決まりやったら仕方なかもんね」
出来ればその子みたいに真剣で、あの子犬を可愛がってくれるような家に引き取られて欲しいなと俺は思って仕方がない。
その日、帰宅してから俺たちは子犬を引き取りたいと申し出た人たちの書類を確認するのだった。
隣の後輩は俺の声が好きらしい。 池中 織奈 @orinaikenaka
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