家での勉強会

 勉強会をやる日がやってきて、倉敷、三瓶、そして残りの数名のクラスメイト――徳定、堺という男子生徒と、南海という女子生徒も一緒に俺の家へとやってきた。

 倉敷はマンションのエントランスの所から「此処が花音ちゃんのマンションかぁ」とつぶやいていた。




 ちなみにそんな台詞を呟いていたので、徳定に「天道さんのマンションだからってそんな風に言うって変態っぽいぞ。ストーカーとかするなよ? 達史」とからかわれていた。それに対して、倉敷は「そんなことしないし! 気になっただけだし」と答えていた。



 さて、そんな会話をしながら俺達は部屋へと向かう。それにしても高校に入学してこれだけの大人数が俺の家に来ることは初めてである。




「上林君、今日は達史がごめんね。家に行きたいと押し掛ける形になって」

「大丈夫だ」



 三瓶に謝られて、そう答えておく。



 俺の部屋の中へと入って、そして早速勉強会を始める。倉敷はちょっとしゃべりだしそうになっていたけれど「勉強しにきたんだぞ」と言われて静かになっていた。



 机のまわりに何名かが座って、残りはソファで教科書を読んだりしている。流石に7名で囲むには机は狭かった。

 俺は歴史と英語の教科書を読むことにする。花音に教えてもらっていつもよりも余裕があるとはいえ、きちんと勉強はしておきたい。



「なぁ、上林、これってどうとくんだ?」



 倉敷は数学の勉強をしているらしく、俺に問いかけてくる。



 部屋の中へ足を踏み入れた当初は「花音ちゃんの部屋もこういう部屋かなー」とかいって興奮気味だったが、いざ、勉強を開始すると真面目にやっているようだ。



「これはなぁ……」



 俺は倉敷が悩んでいるところを見て、「あ、これは花音に俺も教わったところだ」とそう考えて、その時のことを思い出しながら説明していく。

 やっぱり花音の教え方って覚えやすいんだよな。それになんというか、花音が口にした言葉とかって、記憶に残る。



「分かった!! 上林、教えるの上手いな」

「あー……俺が上手いというか、俺も人からの受け売りだから」

「そうなのか? でもそれでもこれだけ分かりやすく説明できるの凄いと思うぞ」



 そんな風に倉敷は言って笑う。



「上林、これは?」

「上林君、これ分かったりする?」



 花音や凛久さんがいる時は俺が生徒役なのだが、この場では俺は先生のように聞かれると答える役になっている。もちろん、分からない所もあるから、そこらへんは協力しながら解いていく感じになるけど。

 ゆうきも授業を真面目に聞いている方なので、俺が分からない所とかも補足してくれたりする。



 普段、花音に教わってばかりだから、俺が教える側というのは不思議なものだけど、いま、こうして色々説明出来ているのってやっぱり花音のおかげだと思う。あとで花音にお礼を言っておこうと思う。



 ……というか、この場に花音は全然いないのに、俺は結構花音のことを考えてしまっているなと不思議な気持ちである。なんというか、花音と関わりだしてから四か月ぐらいなのにすっかり花音がいるのが当たり前になっている。



 一時間ほど勉強を真面目に進めて、一旦休憩をすることになった。

 冷蔵庫を開けて、飲み物を注いでいく。全員分の飲み物を準備していれば、三瓶と南海の女子二人が手伝いを申し出てくれた。




「上林君の冷蔵庫、一人にしては大きいね。甘いものや飲み物も多いし、食材も多いね」



 ……最近色々冷蔵庫におかれているものが多いのは、確実に花音が平日の朝、夜、そして土日の朝、昼、晩と俺の家にいる影響だな。



 花音はもう鍵渡してからは俺の家に直行しているし、多分食材とかも買ったものを俺の家の冷蔵庫に入れていると思われる。



「客がたまにくるからな」



 とりあえず花音がいつも俺の家にいることを悟られるとややこしいので、そのように答えておく。



「そうなんだ。だから食器も多いんだね」



 それも花音が自分で使いたい食器とか俺の家に持ち込んでいたりするからだな。元から俺が持っていたマグカップなどの中でも花音が気に入った花音用になってしまったものもあるしなぁ。



 こう考えると、俺の部屋ってすっかり花音に関わるものであふれている。



 三瓶と南海の問いかけに適当にそれらしい言葉を答えながら飲み物を運んだ。一息休憩をした後は、もう一度勉強タイムに入る。

 しばらく勉強をしてから、「そろそろ帰らなければ」と倉敷たちが口にして、そこで勉強会はお開きになった。



「上林、今日はありがとな。花音ちゃんの住んでいるマンションに一度でも入れて嬉しかった。勉強も教えてもらえて助かった」




 倉敷はそう言ってにこにこと笑った。



 屈託のない笑みを浮かべる倉敷に続いて、他の三人もそれぞれお礼を言う。

 倉敷たちが帰る時にゆうきも帰宅していった。














 花音に勉強会が終わったら連絡してほしいと言われていたので、連絡を入れておく。すると1分もたたないうちに部屋がガチャリと開いた。

 念のため、倉敷たちが去ってから10分ほど経ってから花音に連絡して良かったかもしれない。これだけ早く花音が俺の部屋に来るならすぐに連絡したら鉢合わせたかもしれないし。



「き―君、勉強会お疲れ様!! これ、おいしそうなケーキ買ってきたんよ。夕飯食べたら、一緒食べよー!!」

「ありがとう、花音」




 花音はケーキを買ってきていたらしく、「勉強を頑張ったきー君へのご褒美!!」などといいながら一旦冷蔵庫にしまう。

 その後花音と一緒に夕飯を食べて、ケーキを食べて、ゆっくり過ごすのだった。


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