とある雨の日のこと。
花音の誕生日から数日が経過した。
もうすぐ二学期も終わる。——二学期が終わるということは、期末テストが近づいているということである。
期末テストと聞くと、少しだけ億劫な気持ちになる。ただ、今回のテストでは凛久さんや花音に勉強を習っているのもあって、いつもより余裕がある。最近は花音と一緒に試験勉強をしていることも多い。
「遊びたかけど、テストは大事やもんねー」
とそんな風に言いながら花音は、勉強をしていた。……花音は俺よりも理解力があるので、俺がテスト勉強している間も遊ぶ事が出来るのだが、「きー君がやるなら私も勉強すーよ」などといって一緒に勉強をしていた。
テストが近づいているということもあり、クラスメイトたちの態度もそれぞれである。
今まで勉強をしていなかったからと慌てて勉強をするもの、最早テストなんて知らないとばかりに諦めているもの、真面目にコツコツと勉強を進めているもの――などである。
その中で俺やゆうきはどちらかというとコツコツと勉強を頑張っている組だろうと思う。
「喜一は今回は少し余裕そうだなぁ」
「今回は結構勉強しているから」
凛久さんと花音に勉強を習った結果、俺は心持ちが前より余裕である。完璧とまでは言えないが、そこまで酷い点数を取ることはないだろうと言えるぐらいには勉強をしている。
来年にはもう高校三年生、そしてその後には大学が待っているのだ。そのためにも勉強にはしっかり力を入れておきたい。
「上林、勉強しているのか? 俺なんてサッカーばかりで全然勉強できてないぞ!!」
「……そうなのか、倉敷」
「ああ。ノートもあまり取れてないんだ」
倉敷はそう言いながら困った顔をする。もうすぐテストだというのにそれでは不安だろうと思う。
「倉敷、ノート見るか?」
「いいのか!?」
倉敷は俺の申し出に嬉しそうな顔をする。俺のノートが倉敷の役にどれだけたつかは分からないが、困っているのならば助けたいと思ったので申し出た。
「上林、ノート綺麗だな」
「そうか?」
「ああ。俺は結構落書きしているな」
そんな会話を交わしながら、倉敷はノートをまじまじと見るのだった。
さて、そんなテストが迫ったある日のこと、帰り際に外を見れば雨が降っていた。
天気予報では、雨の確率は30%と低かった。雨に濡れるのも嫌なので、毎日、天気予報を見ているが、それでもその結果傘を持ってこなくて困ることは当然ある。
俺は傘を持ってくるのを忘れてしまっていた。
今朝に花音に「傘持っていかんと?」と問いかけられたものの、「30%だから大丈夫だろ」と答えてしまった。……花音の忠告通り、折り畳み傘でも盛って来ていれば良かった。そんな後悔が芽生える。
雨がざーざーと降り注いでいる。ゆうきはクラスでの係りの役割があるからと今は傍にはいない。
どうしたものか……。
雨が降る外を見ながら、俺はこのままどこかで時間をつぶそうかなどと考える。そうしていれば予想外の事が起きた。
「傘をお忘れですか。上林先輩。傘、入りますか?」
……花音が学園で声をかけてきたのだ。挨拶ぐらいでは声をかけてくるようになっていたが、学園で花音がこんな風にがっつり話しかけてくることなど今までなかった。
俺は戸惑ってしまう。
「え」
「花音ちゃん、どうして上林先輩と? 傘だったら俺が上林先輩に貸すよ? 一緒に入る必要はないだろう?」
花音の後ろにいた生徒が俺が驚いている間に不服そうに口にした。――どうして花音が俺にそんな申し出を? とでも思っているらしい。
「お兄ちゃんに聞いたのですが、偶然にも上林先輩は私と同じマンションだというのです。ならば、一緒に入った方が効率が良いでしょう。見知った先輩が困っているのに放っておけません」
などと最もらしく花音は言っているが……、多分内心「だから傘をもっていきーっていったやんか」とでも思ってそうな気がする。
俺が戸惑っている間に、花音は周りを説得させてしまった。
……花音はこの学園の中でも目立つ存在なので、きっと俺が花音と一緒に帰ったことは広まるだろうなと思う。もちろん、「優しい天道花音が困っている先輩を放っておけなかった」というそういう噂としてだろうけど。
「ではいきましょう」
有無も言わさぬ笑みでそう言われ、俺は「助かるよ。……天道」とそういうしかなかった。というか、駄目だな。ずっと家で花音花音って呼んでいるから、こうやって戸惑っている時って「花音」って呼びそうになっていた。
この場で花音のことを花音なんて呼んでしまえば色々と騒がしいことになるだろう。
花音の傘の中へ入って、一緒に学園を出る。何だか不思議な気分だ。下校時間より少し遅いから、生徒たちの姿が減っていることが救いだろうか。
「……なぁ、なんでわざわざ一緒に?」
「私がきー君を放っておけるはずなかやろ」
人気がない場所まで歩いたところでこっそりと隣の花音に問いかければ、そんな花音らしい答えが返ってきたのであった。
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