帰り道に、拾った子犬②

「花音、喜一!」



 しばらく動物病院で治療を待っているうちに、凛久さんがやってきた。



「お兄ちゃん! 来てくれてありがとう」

「花音の頼みなら当然だ。それにしても雨の中、子犬が捨てられているなんてひどい話だな。飼えなくなった事情があるのかもしれないが、きちんと対応すればいいのに」

「そうやねー。一人じゃ解決できんでも、周りの人に助けを求めれば解決策だって出てくるはずとに、そういうことせんといて捨てとっとやろー? うん、ややね」



 花音はそう言って悲しそうな表情をしている。

 花音は優しいから、そういうことを考えただけで悲しくなったのかもしれない。

 いざ、飼えなくなったとしてもそのまま放り出すのは俺も違うと思う。





「凛久さん、俺と花音の住んでいるマンションはペット禁止なんですが、どうするのが一番いいと思いますか?」

「そうだな。ペット禁止のところでペットを飼うのはやめた方がいいだろうから、ひとまず俺一旦預かる」

「凛久さんの住んでいるところってペット大丈夫ですか?」

「俺の所は駄目だから一度知り合いの家で預かってもらえないか聞いてみる」

「凛久さん、ありがとうございます!」



 凛久さんはそれからてきぱきとスマホで電話をかけ始めた。何人か知り合いをあたって、しばらくの間預かってもらえる場所はすぐに見つかったらしい。



 俺と花音の二人だけだともっと子犬をどこで預かってもらえばいいだろうかと色々悩んでしまったことだろうから、凛久さんのそういう姿はとても頼もしく思えた。

 俺よりも少し年上なだけだけど、凛久さんって本当に頼りになる。




「花音、喜一、一旦預かってくれるところ見つけた」

「流石、お兄ちゃんやね。ありがとう!」

「近所に住んでいる金森さんっていうおばあさんが預かってくれることにはなった。ただ金森さんは複数の犬を飼っているからこれ以上増やせないらしいから、一時的やけん、ちゃんと飼ってくれるところはさがさんと」

「そうなんねー。でも一時的でも預かってくれるところが見つかってよかった」



 花音は凛久さんの言葉にほっとした様子を見せた。



 しばらく預かってくれる場所がそうして見つかったわけだけど、子犬は雨の中放置されていたというのもあってもうしばらく安静にしていた方がおく必要があるということでその子犬は数日は入院することになった。その入院費用も凛久さんが支払いを済ませてくれた。



 高校生の俺と花音にとっては高額と言える値段だったけれど、凛久さんは嫌な顔一つせずにぽんと払っていた。いきなり俺と花音が呼び出してしまったわけだけど、凛久さんはそういうところがかっこいいと思う。

 俺と花音が二人してお礼を言えば、「気にするな」と言って笑ってくれた。

 俺は兄妹が居ないから分からないけれど、こんな風に頼られることも凛久さんにとっては嬉しいことらしい。




「早く良くなってほしかねぇ」

「そうやね。これで子犬が亡くなったら悲しかし」



 このまま子犬が亡くなるなんてことになったら、俺も悲しくなる。

 安静にして、無事に回復してくれればいい…とそう思うけれど、小さな子犬が回復するかどうかは状況次第だろう。



「あの子は回復してくれるって信じとるけん、ちゃんとした引き取り先を探さんといけんんね。一時的にはおにいちゃんの知り合いが預かってくれることになっとっても、長期間預けるのは迷惑になるやろうし」

「学園でクラスメイトたちにでもあたってみるか。実家暮らしの人なら引き取ってくれるかもしれないし」

「そうやねー。一人ぐらいは引き取ってくれる人もいるかもしれんね。でも拾った責任があっけん、ちゃんと問題がなさそうな家に引きとってもらわんと。私に良い顔したかけん引き取るっていう人もおるかもしれんし、ちゃんと引き取ってくれるって言った人がこの子を幸せにしてくれる人かはちゃんと確認せんといけん」

「そうだな。花音目当てにただ引き取るっていう人だと、ちゃんと可愛がってくれるか分からないしな」




 学園には花音の気を引きたいという人は多くいる。そういう花音の気を引くことだけを考えている人だと、ちゃんと可愛がってくれるか分からない。

 ちゃんと引き取った後、責任をもって育ててくれる相手じゃないと困る。そのまま、またその子犬が捨てられるなんて自体になったら悲しいから。

 花音は周りから好かれる人気者である。

 だからこそ、花音によく思われたいからという理由だけで何か良い顔をしようとする人はそれなりにいるようだ。



「花音、喜一、しばらくは金森さんところで見てもらえるから、そこまで急いで探さなくてはいいぞ」



 凛久さんはそう言ってくれているけれど、なるべく早く探した方がいいだろう。




 子犬はまだ入院が続くので、一旦俺たちは家へと帰ることにした。知り合いのクラスメイトたちには子犬の情報を流しておく。花音もスマホを使って飼い主募集中というのは周りに伝えているようだ。



「思ったよりも飼い主募集中の子犬がいるって流すと、広まっとるみたい」

「花音が探しているからだろうな」



 花音が知り合いのクラスメイトに少し情報が流せば、すぐにその情報は広まっているようだ。

 俺たちの通っている学園の生徒たちは花音のことが大好きなので、それだけ広まるのも早いのだろう。



「なんかすぐにひきとりたかーって言ってる人は、親とかにちゃんと話しているかとかも分からんし、勝手に言っとるだけなら問題やけん、ちゃんと確認せんとね」



 花音のスマホにはひっきりなしに連絡が来ているようで、花音は決意したようにそう告げているのだった。


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