帰り道に、拾った子犬①

「きー君! かえーよー」

「ああ」



 まだ梅雨は続いている。



 外では雨が降っている。幸いにも小雨だからいいけれど、大雨が続くと通学も大変だ。

 たまにならいいけれど、梅雨って常に雨が降ると少しだけ気分が沈んでしまうものである。濡れるしな。

 あと傘をさしていると花音と手が繋げなかったりするし……。




「きー君、今日も雨がざーざーふっとんね」

「そうだな」



 雨の音がする中、花音と一緒に歩く。



「でも雨の日でもきー君が隣にいっと思うと嬉しかけん、全然よかなーってなるんよね。風邪ひくのは嫌やけん、濡れたくはなかけど」



 花音とそんな会話をかわしながら、歩く。

 視界の端には、俺たちと同じように雨の中傘をさして帰宅する学生や社会人たちの姿が見える。



「俺も花音がいるから雨でも楽しい」

「そういってもらえっと私もうれしかよー」



 花音が俺の言葉ににこにこと笑っている。

 花音と一緒に歩いていると、小さな何かの声が聞こえた。



「何か声がきこえーね」



 花音はそう言って、その声の主のことが気になるのかそちらへと駆け出していった。

 雨の中、走り出した花音に少しだけはらはらする。こけてしまわないか、心配になってしまう。



「きー君、大変よー! かわいかわんこが捨てられとー!」



 俺は水たまりをさけながらゆっくり花音の駆けだした方へと近づいた。



 そして花音の言葉に、そちらを見れば――段ボールの中に、一匹の子犬が居た。茶色の毛並みの子犬。これが捨て犬というやつだろうか?

 こんな雨の中で屋根の下とはいえ、行く当てもなく捨てられているなんて胸が痛んだ。




「可愛い子犬だな」

「うん。めちゃくちゃかわいかー! こがんかわいか子捨てるとか許せんねー! 雨やし、風邪ひくかもしれんとに!!」



 花音は憤慨した様子を見せている。


 こういう光景を見ると、ペットを飼うのは責任が伴うものだと思った。こういう風な捨て犬は何らかの理由や事情があって捨てられたんだろうけれども、そういう風に最期まで面倒を見れないのならば飼わない選択肢をした方がいいとは思う。




「このまま放っておくことはできんよ! でも私たちの住んどるマンション、ペット禁止やもんね。どがんしたら一番よかかな?」



 花音はそう言いながら眉を下げている。


 俺と花音の住んでいるマンションは、ペット禁止である。というか、賃貸マンションは割とペット禁止な所は多いと思う。許可されている所だったら、そのまま連れて帰って飼うことも出来たけれど……、どうするのが一番良いのだろうか?


 そんなことを考えていたら花音の慌てたような声が聞こえてきた。




「きー君! かわいかわんこが苦しそうにしとーよ!! いつから此処におっか分からんけど、雨ん中放置されとったけん、具合悪くなっとっとかもしれん!!」

「花音、とりあえず獣医に連れていこう」

「うん。そうやねー」

「それからのことはひとまず動物病院に連れて行ってから考えるとして……」




 そこまで言って、高校生である俺と花音だけだと対応することって難しいと思った。

 飼い主を探すにしても、誰か大人の力は借りなければならないし。動物病院に連れていった後の対応もどんなふうにしたらいいのか、こういうことは初めてなので判断がつかない。



「花音、凛久さん、呼べるか?」



 俺の両親は海外だし、花音の実家は遠いし、一番真っ先に重い浮かんだのは凛久さんである。凛久さんはまだ大学生ではあるけれど、勝手に二人で判断するよりも凛久さんの助けを借りた方がいいと思った。

 花音はそれからすぐに凛久さんへと連絡を入れた。




 花音から突然の電話に凛久さんは興奮した様子だったが「お兄ちゃん、私困っとっとー。助けてほしかけん、これん?」という声にすぐにこちら来ることを了承したようだった。

 花音は軽く子犬が捨てられていて、具合が悪そうなこと。そしてその子犬を動物病院に連れていくことなどを凛久さんに説明していた。




 その電話が終わった後に、俺と花音はその子犬を近くの動物病院に連れていくことになった。

 幸いにも徒歩圏内に動物病院があったので、そこに連れていくことにする。




 段ボールごと抱えて、その子犬を連れて歩く。両手が塞がったので傘は花音がさしてくれていた。

 そして動物病院についたら、その子犬を診てもらった。



「すぐよくなるとよかけど……」

「そうだよなぁ。よくなって欲しい」





 小さい子犬だからこそ、その分色々とか弱い部分があると思う。すぐに元気になってくれればいいなと俺と花音は願うばかりだった。


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