俺の地元へ ⑥

 そこにいたのは、藍美だった。



 久しぶりに見る藍美は、何だか様子がおかしかった。俺が地元に帰ってきていることを藍美は知って、こうして俺の家の前にいるのだろうか。正直言ってこのまま方向転換をしてホテルにでも泊まろうか――などと思ったのだが、俺の左右にいる花音と凛久さんはそういうつもりはないらしい。



「きー君、大丈夫よ。あん人しかおらんけん。どうにでもなーよ。ちゃんときー君の彼女は私やってわかってもらいたかし」

「そうだぞ。喜一、ずっと逃げているわけにもいかないだろう。俺たちがいるから話そう」




 花音と凛久さんは、にっこりと笑ってそんなことを言う。



 相変わらずこの兄妹はどうしようもないほど前向きで、その自信満々な様子に俺も前向きな気持ちになる。

 二人に勇気をもらって、俺は藍美に近づく。



 相変わらず派手な外見をしている。髪を染めていて、スカートも短い。小学生の頃は真面目な雰囲気を醸し出していたけれども、中学に入ってからの中学デビューしてこんな雰囲気になったのだ。高校になってもその調子だったらしい。



「喜一!!」



 何で俺にそんな風に執着しているのかはさっぱり分からないけれど、凄い目で俺を見てる。というか、俺しか目に入っていないようなそういう様子である。



「久しぶり、藍美。何の用?」

「何の用って! あんた、県外の高校に勝手に言って、私に連絡もないってどういうことよ!?」

「どういうことって……、別に藍美にそういうことを言う必要ないだろう」



 ただでさえ俺は藍美がよくわからないことを言っていたこともあり、中学で色々とややこしいことになっていた。変な誤解をされて大変だったのだ。藍美はそういうことを自覚していないのだろうか。というか本当に花音と凛久さんの事を気にしていない様子で、余計に訳が分からない。



 まだ藍美のおばさんもいないことはほっとすべきだろうか。なんか暴走していたしなぁ。



「――どうしてよ!! 喜一は私と一緒にいなきゃいけないでしょ!! 勝手に違う高校に行ったことも許していないんだから!! 卒業したらこっちに戻ってくるのよ!!」



 藍美の中では、俺は藍美の言うことを聞く存在だと思われているのかもしれない。それでいて俺が藍美の傍にいるのは当たり前という認識のようだ。中学の時は否定はしていたけれど周りが藍美の賛同者ばかりで言うことを聞いてしまっている面もあった。



 最終的に県外の高校に向かったわけだけど……花音に出会わせなければそもそも俺はこの地元に戻ってくる勇気もなかっただろうし、こうして藍美と対峙するというのももっと数年かかったかもしれない。

 ――全部、花音に出会ったからなんだってそう思うと、花音に出会えてよかったなと思った。




「――藍美、俺は藍美と一緒にはいないよ。一緒にいなければならないなんてことはない。藍美に違う高校に行ったことを許されるなんてそんな必要もない。卒業しても戻ってくることはしないし、藍美の言うことを聞く必要もない」




 はっきりと藍美の目を見て言いきれば、藍美は驚いたように目を見張った。

 藍美は俺がそう言う風に反論するとは思っていなかったらしい。



「どうしてよ!! 喜一は私の傍に居なければならないでしょう!!」

「――藍美さんって言いましたっけ。はじめまして。きー君を虐めないくれます?」



 俺に詰め寄るように近づいてくる藍美。それを見て花音が俺の前に立つ。俺の視界に映る花音の後ろ姿がなんと頼もしいことか。




「――誰よ、貴方!!」

「私ですか? 私はきー君の彼女ですよー。藍美さん」



 花音はそう言い切った。




 花音の表情は俺には見えない。だけれどもきっと花音は自信満々な顔をしているだろう。それが分かる声だった。俺の隣で凛久さんは面白そうに笑っている。こちらはいざという時に藍美を止めるためだろうか、少し身構えている。



「彼女? 何を言っているの! 喜一の彼女だなんてそんなわけないでしょう!! 私がいるのに!!」

「何を言っているんですか? 他でもない私がきー君の彼女なんですよー? 藍美さんはきー君と幼馴染っていうだけでしょう? それなのにどうしてきー君にそんなことを言っているんですか?」




 不思議そうな声を発する花音。

 そんな花音は藍美の尋常ではない様子にも全く怯んでいない様子だった。


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