バレンタイン ④

 花音は何と言った?

 “私もすいとーよ”って、私も好きだよって意味か? え、でも聖母様なんて言われていて、何時だって明るくて、優しくて、真っ直ぐな花音が?



「きー君、なんか反応しーよ、なんか恥ずかしっかったい」

「……花音は、俺のこと、好きなのか?」



 自分がこんな言葉を口にすることなんて想像していなかった。あんだか自惚れている人のような言葉。


 ――だけど、背中に感じる体温と、聞こえてきた声は確かで――だから俺は口にした。



「……さっきもいったやんか。私もきー君こと、すいとーよって。何度も言わせんでよ。なんかドキドキしてくるやんか……」

「それって、俺と一緒の意味って思っていいのか……?」

「……きー君は心配性やね。何階も言うと恥ずかしかとよ。……私、きー君こと、すいとっとよ? きー君が卒業した後も一緒おれたらっておもいよったし、きー君が私と恋人になりたかって言ってくれて嬉しかもん。やけん、私もきー君とこ、恋人になりたかなっては……思うもん」


 花音の声が背中から聞こえる。その言葉が可愛くて、思わず俺は笑ってしまう。それと同時に顔が赤くなるのは、好きな子にこんなことを言われているからだろう。




「………うぅう、なんかめっちゃ恥ずかしか!! なん、きー君も私んこと、どんだけ好きなんかいいーよ!! 私ばっかに言わせるとか恥ずかしかやんか」

「……俺はさっき告白しただろ」

「そうやけど!! さっき、私驚きすぎてじっくりきー君の声、堪能できんかったんやもん。ね、きー君、私んこと、どんくらい好いとー?」



 花音の表情は見えない。背中にずっと抱き着いているから。でもきっと花音は俺と同様、顔を赤くしているだろうとは思う。

「……花音、俺は花音のこと、好きだよ。花音はいつも笑顔でにこにこしていて、俺はそんな花音の笑顔が好きだよ。無邪気で、俺に懐いてくれていて――、好意を隠さず伝えてきて……。でもただ無邪気なだけじゃなくて、何でも受け入れてくれるような優しさがあって。

 花音は俺に何があったら俺を守るなんていって、俺も花音を守りたいって、そう思ったんだよ。花音がいるのが当たり前になって、花音が好きだなって思った……って改めてこんな言うとちょっとあれだな」

「えへへー。きー君、私んこと、大好きなんね」

「……花音はいつまで俺に抱き着いているんだ?」

「……恥ずかしかもん。真正面から大好きな人にこがんいうってなんか緊張すったい?」

「抱き着いている方が恥ずかしくないか? 俺は花音の体温とか感じて……恥ずかしいっていうか、凄いドキドキしているんだけど」

「私もめっちゃドキドキしとーよ」



 しばらく二人してドキドキしすぎて、恥ずかしいやらなんやらでその状態のままだった。





 その後、花音はようやく俺の背中から離れた。





「ふふ」

「花音、楽しそうだな」

「楽しかよ。きー君が告白してくれたんやもん!! きー君は私んこと、大好きなんねーってよく分かったけん、嬉しくなかわけなかたい」

「花音が楽しそうで何よりだ。……俺も花音が、俺を好きっていってくれるなんて思わなかったから、夢みたいな気分だ」


 俺がそう言うと、花音はソファに座る俺の隣に座って、俺の頬に手を伸ばしてくる。




「夢なんかじゃなかよー。私もきー君のこと、大好きやもん。やけん、私ときー君は、これからこ、恋人!! きー君は私の彼氏なんよ!!」



 ちょっと恥ずかしそうに花音は言い切った。途中、声が小さくなることはあったけれど、花音は何だかんだで言い切った。顔は赤い。




「花音は、可愛いよな」

「……本当のことででも好みの声で言われると余計、ドキドキすったい!! というか、きー君、さっき告白されたとかいいよったよね? そこんとこ詳しく!!」

「え。ああ……えっとな」



 花音に勢いよく言われて、明知に告白された時のことを言う。



「きー君に目をつけるとは、明知先輩は見る目があっね! きー君、他にも選択肢あったとに、私んこと、すいとーって言ってくれてありがとう」

「花音の方こそ選び放題だろうが。俺でいいのか?」

「もー、そがん自己評価ひくか発言はめっよ!! きー君はかっこよかし優しかし、私、きー君のこと、周りに自慢したかもん!!」



 俺の言葉に花音は、相変わらずの……俺が好きだなと思う明るい笑みでそう言い切った。本当に花音にはかなわないというか……花音がそう言ってくれるのなら、俺は幾らでも自信が持てる気がした。



「きー君、私きー君が私の恋人になったって、報告すーね!! きー君も報告してよかけんね?」

「ああ」

「そうだ、明日からどうすー? 私、きー君に迷惑かけっかもしれんけど、きー君と学園でもはなしたかなーって思うけど」

「……俺も。というか、花音が好きで、花音と恋人になれて、花音と過ごしていこうってこれから思っているんだから、俺はもう逃げないよ。花音と急に一緒に居たら色々言われるかもしれない。でも花音の傍にいることを決めたのは俺なんだから」

「きー君、そういうところ、思いっきりよかよね? かっこよかねー。きー君に何かすっとやったら守るけんね。あとあれやね、ちょっと的場先輩に伝えておいて根回ししてもらわんとね」



 ――花音と急に一緒に居たり、花音と付き合うと公表したら色々と厄介かもしれない。でもそんな厄介なことを抱え込んだとしても、そういうことがおこったとしても……俺は花音の傍に居たいなと思ったのだ。



 その後、告白して受け入れられて――ということで少しぐらいぎくしゃくするかと思ったが、しばらく経てば、俺達はいつも通りに過ごしていた。

 今日は金曜日なので、明日は凛久さんと的場先輩が家にやってくると言っていた。



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