放課後に遊びに出かける ①

「ねーねー、きー君、今日、新しく開店したケーキ屋さんいかん? めっちゃおいしかって噂なんよ」




 ある日の放課後、花音がふとそんなことを言った。

 新しく開店したケーキ屋さん。その単語だけでも俺は甘いものが好きなのでワクワクした気持ちになる。



「行くか」

「うん。いこーいこー。ちょっとならばんといけんって話やけど、よか?」

「うん」




 新しくオープンしたというのもあり、そのケーキ屋は混んでいるようだ。

 少し並ぶぐらいなら全然いいと思っている。というよりも花音と一緒ならばどんな待ち時間でもきっと楽しいので、俺は待ち時間も楽しみになっている。




「じゃあ、いこ!」



 花音に手をひかれる。



 花音の足取りはスキップするかのように軽い。よっぽどケーキ屋を楽しみにしているのだろう。嬉しそうに小さな声でアニソンを口ずさんでいる花音。



「花音、はしゃぎすぎるとこけるぞ」

「大丈夫! ちゃんと足元も気をつけとるもん」



 それにしても花音が嬉しそうにしているだけでこっちも幸せな気持ちになる。



 街行く人たちも花音のご機嫌な様子を見て、頬が緩んでいる。やっぱりなんというか、花音はそういう人を幸せにするようなオーラがあふれ出しているのだと思う。これだけにこにこされたら、どれだけ怒っている人でも我にかえるだろうし。

 そういう強さを花音は持っていて、花音の凄さをいつも感じてしまう。




「きー君は、どがんと食べたか? 私ね、今日はチーズケーキとか食べたか気分よ! チーズっておいしかよねぇ。でも甘い者だと別腹やけん、幾らでもはいーよねー。はっ、でもたべすぎっとふとったりすーかな? あんまり太りにくか体質やけど、きー君に嫌われたらいややけん、太ったら運動もせんと!」

「花音は太ったとしても可愛いだろ」



 そもそも花音の中身に惹かれているので、体形が変わったとしても可愛いなぁと思うだけだと思う。でも俺のために運動してくれると考えるとそれはそれで嬉しいけれども。

 でも花音ならどういう姿でも、どういう一面を見せたとしてもきっと根本的な部分は変わらなくて、きっと花音は花音のままだと思う。だから俺はどういう姿を花音が見せてもきっと受け入れられるとは思う。



「俺、花音が例えばギャルみたいになったりとか、髪を染めたりとか、全く雰囲気が違うようになってもきっと受け入れられると思う」

「えへへ、ほんとー? やったら大学生になったら一回ぐらい髪でも染めてみてもよかかもねぇ。きー君はそめたりせんとー? 私もきー君のちょっと違った一面とか見れたらもっとときめくと思うんやけどさ」

「髪は今のところ、染める気はないな」

「そっかー。でもあれやね、私がこれ着てほしかってあんまりきんようなもの買ってきたりしたらきてくれたりすー?」

「うん」

「じゃあ色々準備出来たら、きー君家にもってくっけんね。そしたら色々髪とかもいじらせてね!」

「ああ」

「あんね、私が髪型を変えたりしたらうれしか?」

「うん。想像しただけで絶対可愛いし」

「ふふふ、じゃあ的場先輩呼んで、色々髪型いじってもらおうかなー。やっぱりもっとかわいか私を沢山見せてきー君を悩殺せんといけんもんね」



 花音はそんな可愛いことを言っている。



 花音の可愛さって見た目っていうよりも中身だと思う。中身の素直さというか、可愛さが花音の一番の可愛さだと思う。



 そんなこんな話しながら歩いていたら、ケーキ屋にたどり着いた。そのケーキ屋はやっぱり開店したばかりというのもあり、結構な人数が並んでいる。女性が多いので、一人だったら並ぶのを躊躇ったかもしれない。



 やっぱりこういうお店って、女性が客層のメインなことが多いから一人で並びにくいとかあるから。



 それなりにカップルも多い。女性の方がにこにこしていて、連れてこられたであろう彼氏の方はつまらなさそうにしているカップルもいる。俺は甘い物が好きだから喜んで並んでいるけど、苦手な男性も多いだろうからなぁ。



「おいしかケーキ沢山たべれっと思うと楽しみやわ」

「花音、前後の人に聞こえるから歌うのはちょっと控えような」

「はっ、思わず口ずさんどったわ。だめやね。私、時々歩いとる時も思わず気づかんうちに口ずさんどる時あっとよねー」



 花音はそんなことを言いながら自分の口を手でふさぐ。



 そういう仕草を見て思わず笑ってしまう。俺たちの会話が聞こえていたであろう前後に並んでいる人たちも思わずといったように笑っていた。

 花音はその後、歌ってしまいそうと思ったのか小声で俺に話しかけている。




「きー君、何個ぐらい食べる? 私、幾らでも食べれそうなんよ」

「俺も三つか、四つは食べれるだろうな。夕飯が食べれなくなったりしそうだからなぁ」

「でも今日ぐらいはよくなか? ケーキだけの日とかもさー」

「まぁ、そうだな」



 花音とそう言った会話を交わしていると、時間はあっと言う間に過ぎていく。俺たちが席に案内される番がやってきた。



 案内されるままに中に入って、席に着く。そしてケーキを頼んでいく。花音は五つほど取っていた。そんなに入るんだろうか? とはいっても俺も三つはとったけれど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る