後輩の兄の襲来 6

「ふふふふふ~ん」



 花音は機嫌よさげに鼻歌を歌っている。よっぽど俺の部屋でお泊りできるのが嬉しいらしい。ちなみに今着ている服は、パジャマである。

 お泊りすることを決めた花音は「パジャマとか取ってくる」と口にして一旦部屋に戻っていったのであった。ちなみに凛久さんは元々花音の部屋に泊る予定で荷物を持ってきていたらしい。



 それにしても……と思いながら花音を見る。



 花音は花柄のピンクのパジャマを着ている。上下お揃いで、上はボタンで留めるタイプ。下のズボンは夏だからと言うのもあって短く、その白い足が曝け出されている。……目のやり場に困る。本当に同年代の男の部屋にいる自覚がないのだろうか。



「む」




 視線を感じたのか、嬉しそうに布団の上でごろごろしていた花音は俺の方を見る。花音はにんまりと笑った。



「ふふ、きー君、私のパジャマ姿に悩殺されてるのです? ふふふ、どうぞどうぞ。ご堪能してください!! なんならいつも世話になっているお礼で好きなポーズでもしてあげ――」

「年上をからかうんじゃない。あと女の子が簡単にそんなこと言っちゃ駄目だからな」



 そう言いながら俺が布団をかぶせれば、花音はまた笑った。



「もー、きー君は本当に紳士ですね!! そんなきー君だから好きなポーズしてあげるって言ってるのにー。でもまぁ、してほしいこととかあったら言ってくださいね? 私、お礼に色々しちゃいますよ!!」

「……はいはい」



 そんな会話をしていたら、トイレに行っていた凛久さんが戻ってきた。



「あ、お兄ちゃん、戻ってきた! きー君、お兄ちゃん、何します? 私、この面子なら何しても楽しめる自信あるんですけど」

「俺は花音が楽しいなら何でもいい」



 ……凛久さんは本当にぶれないな。花音が良ければすべてよしといった様子に正直言ってこの人は花音が進めれば恋人もすぐに決めそうな気がする。そして花音が拒否する相手とは絶対に仲よくしなさそうだ。



「私もきー君とお兄ちゃんとならなんでもいいです!! というわけで、きー君、何をしたいですか!!」

「俺? 俺も別になんでもいいけど」

「えー、じゃあ、私が独断と偏見で遊びを決めちゃうけどいいんですか??」

「花音が楽しいならそれでよし」

「俺もそれでいい」

「って、きー君もお兄ちゃんも私に甘いですね!! そうだなぁ、じゃあ……トランプでもしましょう!!」



 花音は何だかんだで甘やかされると嬉しいのか、へにゃりと顔を崩して笑っている。

 そんな花音が口にしたのはトランプをしようという提案だった。









「トランプで遊ぶのも久しぶりで嬉しいのです!」



 花音はトランプを配り始めた段階から大興奮だった。本当に犬耳と尻尾の幻想が見える……。尻尾があったら絶対ぶんぶん振っていると思う。



 凛久さんは花音は可愛いなぁと頭を撫でまわしてるので、カードは俺が配っている。最初にやることになったのは七並べである。

 七を先に置いてから順番に並べていく。てか、いくつかの場所が天音か凛久さんに止められている。ジョーカーは俺は持っていない。どちらの手にあるかは分からないが、二人ともまだパスを一度も使っていない。

 二人ともやっぱり頭いいんだなと感心した。素の様子を見ているとそういうのが実感できなかったりするけれど、キリッとした表情で七並べを真剣にしている天音と凛久さんを見るとそれを実感した。黙っているとこう、頭良いオーラがあふれ出ている感じがする。



 それにしても二人ともトランプするの好きなんだな。何だか新たな一面を知れた気がして楽しい。まぁ、凛久さんとは会ったばかりだけど、色んな一面を知ると楽しいものだ。

 結局七並べは、花音が真っ先に上がった。




「やったー!! 私が一位です!! あとは、きー君とお兄ちゃんで頑張らんとね!!」




 七並べで勝利した途端、キリッとしていた表情が一気に緩い表情になった。キリッとしている花音もたまに見る分にはいいかもしれないが、やっぱりいつも俺の家に来ているときの花音の方が好きだなと素直に思う。

 学園の花音、真剣な表情の花音、家でのはしゃいでる花音とかいろんな花音を大分見ている気がするが、こうやって楽しそうにしているときの方が一番良いと思った。



「あ、何笑ってるんですか。きー君。それはお兄ちゃんには絶対負けないぞという余裕ですか!?」

「いや、真剣な表情で七並べしている花音も初めてみて面白いと思ったけど、いつも通り楽しそうにはしゃいでる花音のがいいなーって思っただけ」

「なっ」



 素直に口にしただけなのに花音が顔を真っ赤にした。花音にからかわれることはよくあったが、こうやって不意に口にしたら花音も恥ずかしがるのかと新たな発見でちょっと面白い。良い事を知った気分になる。



「こらこら、兄の前で可愛い妹を口説くんじゃない」

「別に口説いてないですけど? ただ思った事口にしただけで」

「はぁ……そうか」



 何故だか呆れた目を向けられた。でも別に口説くというそういう気持ちはない。花音も俺にそういう感情はないだろうし。ただ楽しそうな花音のがいいなと思っただけだ。



「も、もう!! 急に恥ずかしくなること言わないでくださいね!!」




 花音はぷんすかした様子で布団をかぶって体を隠してしまった。何だか恥ずかしがっているようなのでしばらく花音を放って凛久さんと七並べの続きをした。

 結果として俺は二位で、凛久さんが三位になった。凛久さんが悔しがっていたのでその後別のトランプゲームをやった。七並べが終わった頃、花音が寂しくなったのか布団から出てきたので三人で遊ぶのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る