花音が風邪を引いた翌日

 美味しそうな匂いがする。

 そう思いながら目を開ければ、みそ汁の匂いが食欲をそそった。

 リビングへと向かえば、朝食を作っていた花音が俺の方を振り向く。



「きー君、おはよう!! 私、ふっかつー! だよ!」



 にっこりと笑う花音を見ているだけで、俺はほっとした。

 自分は復活したと、そういってにっこりと笑う花音は相変わらず可愛い。




「おはよう、花音。回復したんだな。よかった」

「うん! すっかり元気よー!」



 自分は元気になったとどや顔の花音を見て、俺も笑ってしまう。本当に花音は可愛い。



「本当にすぐ回復してよかった」



 凛久さんもそう言いながら朗らかに笑っている。



「お兄ちゃんも、わざわざ来てくれてありがとう! でもお兄ちゃんは、今日も大学やろー? ちゃんと大学にはいかんと駄目やけんね?」

「大丈夫だ。今日は午後からでよかけんな」

「ふふ、ならよかよ。私たちが学校行く時に一緒に出る?」

「ああ」



 凛久さんも花音の風邪が治ったことが嬉しそうで、にっこりと笑っていた。



 それにしてもやっぱり花音がこうして元気で、俺が目を覚ました時にいるのってすごくいいな。風邪の時は花音の姿がなくて寂しかったから。



「きー君、なんかわらっとるね? 私がおって嬉しか?」

「うん。嬉しい」

「えへへー私もきー君が私がおるって喜んでくれて私も嬉しか」



 嬉しそうに笑いながら花音は朝食を机に並べていった。花音と凛久さんと一緒に食事をとる。こうして何気ない話を一緒に出来るだけでもやっぱり楽しい。



「そういえば、喜一はもうすぐ修学旅行だろう?」

「そうですよ」

「ならばその間、花音はどうする? 俺が毎日、こっちこようか?」

「もー、お兄ちゃん! 私も高校生やけん別にそがん心配せんでよかよ。でも、来てくれたら来てくれたで嬉しかけどね!」

「やっぱり花音は可愛いな! だったらやっぱり俺も来る。和巳も連れてくる」



 俺が修学旅行に行っている間、凛久さんと的場先輩が花音の元へ来てくれるらしい。スマホを持っていくのは禁止されていないけれど、そこまで触れはしないだろう。写真を撮って花音に送るぐらいは出来るだろうけれど……。

 修学旅行のことを考えると、花音にしばらく会えないのは俺も寂しい。でも大学生になったらもっと離れ離れになるわけだし、慣れとかなければならないけれど。




「喜一は、修学旅行の準備はしているのか?」

「少しずつはしてるけれど、まだちゃんとは出来てないです」

「お兄ちゃん大丈夫よ。私が準備すーもん!! きー君が修学旅行を楽しく過ごせるようにサポートすっとよ!!」



 花音はそう言いながら笑う。



 色々サポートしてくれるらしい。俺の修学旅行の準備をするだけでも花音は楽しいようだ。



「ねーねー、きー君、昨日は看病ありがとう! きー君が具合悪くなった時は私が看病すっけんね」

「うん」



 すっかり花音は元気になっていて、俺も嬉しい。

 その後、ご飯を食べた後、俺と花音は学園へと向かった。凛久さんも大学へと向かう。

 俺と花音が学園へと近づけば近づくほど、学園の生徒たちが花音の姿に声をかけてくる。



「花音ちゃん、おはよう。元気になったんだね」

「天道さん、おはようございます!」



 花音に声をかける人はそれはもう多かった。花音がそれだけ人気者で、好かれているというそういうことだろう。俺は花音がそうやって周りから好かれているのを見るのが何だか嬉しくて、眩しかった。



「ふふ、皆、私の事を心配してくれとったとね。なんかうれしかねー」

「花音のことをそれだけ皆好きなんだよ」

「ふふ、私、人気者やけんね。きー君も私のこと、大好きやろ?」

「うん。好きだよ」

「私もすいとーよ! こうやってすいとーよって言いあえるのよかね」




 登校途中にこんな会話をしていたので、周りにいた人たちに会話を聞かれていたけれどまぁいいやとそんな会話を交わしていた。同じ学園の生徒たちには「相変わらずラブラブだ」などと囁かれていたけど。



 そんな会話を交わしながら、俺たちは学園へと到着した。



 教室へと入れば、皆が花音の体調が回復したことを喜んでいた。

 花音からも『クラスメイトたちが皆わたしのことを心配してくれとったとよ』って嬉しそうに連絡が来た。



 昼休みに花音が俺の元へやってきたけれど、どうやら風邪をひいていたというのもあり、沢山のお菓子などをもらったらしい。



「風邪をひいとった時ももらったとに、回復しても沢山もらって私周りに恵まれとるなぁって思ったんよー」



 そんな風に花音は笑っていたけれど、周りに恵まれているというか、花音が花音だからこそ皆がそういう風に花音に優しくしているのだと思う。



 花音がまるで野に咲いた花のように、空を照らす太陽のように周りに良い影響を与えているのだろう。

 やっぱり花音は俺にとって自慢の恋人だなぁと思った。


 ――そしてそうやって過ごしているうちに、修学旅行の日が迫ってきていた。


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