第40話 アイアンタイガー

 3階層に踏み込んだ。

 3階層は草原で空まである。

 日本であって日本じゃないという言葉がしっくりくる光景だ。


 最初に遭ったモンスターは黒光りするトラだ。

 アイアンタイガーだな。

 しかも両肩に大砲が付いている。


 遠距離攻撃か。


「みんな気を付けろ。何か撃って来るはずだ」


 アイアンタイガーは俺の声が聞こえたのか両肩から丸い砲弾を発射してきた。

 俺は避けたが、モチが食らってしまった。


【キャノンタイガーか。強敵だなCランクはあると思われる】

【底辺おっさんは余裕で避けているから大したことはないんじゃね】

【おっさんが強いんだよ。分かれ】

【食らったモチも平気そうだし】

【モンスターと対峙したことのない一般人が偉そうに】


「大丈夫にゃん。加護のおかげで何ともないにゃん」


【そういう設定か】

【CG使ってないならEランクだな。当たり所が悪くなければ、ほぼノーダメージならそうだろ】

【こいつら何も分かってない】


 水鉄砲と砲弾の撃ちあいが始まった。

 水鉄砲の速度は遅いので、こっちの方が不利だ。


 シロガネは何とか噛みついたり、ブレスで仕留めようとしたが、砲弾の射程距離は長い。

 つかまえられないらしい。


 シロガネも含め、俺達は良いように撃たれた。

 ダメージがないのは良いが、俺の加護も無限じゃない。


【ほんとノーダメージだな】

【これなら楽勝だろ。ドッジボールしてるのと変わりない】

【おっさんが強いのは優しさ力なんだよ。コボルトとケットシー達の信頼が強さに現れている】

【おっさん擁護しても1銭も儲からないぞ】

【おっさん達が採った素材で、どれだけの人が救われたか】

【そうだ、そうだ】


 擁護してくれるのはありがたい。

 どうやらアンチでないファンもいるようだ。


「撤退!」


【あれっ逃げるの? 慎重だな】

【もったいつけたいだけだと思われ】

【撤退するには勇気が要る。素晴らしい決断だ】


 アイアンタイガーは逃げる俺達を追ってこなかった。

 砲弾が効いていないのが分かったからだろう。

 勝負は引き分け。

 実際は負けだな。

 だが、生きてさえいればリベンジできる。


 手ぶらで帰るのも癪なので、生えている草を千切って持って帰る。

 それと撃たれた砲弾だ。


 買取所で草と砲弾を出す。


「また鑑定が難しい物を出してきたな」

「駄目元だから期待はしてない」

「まあ、お前のことだから、当たりが入っているのだろう」


 さて、アイアンタイガー対策を考えないと。

 人に頼るのは辞めにしよう。

 自分で考えるんだ。

 まずあみは駄目だ。

 素早いあいつにあみを掛けるのは難しいというか、至難の業だろう。


 魔法を撃つ。

 魔法のスピードは弾丸より遅い。

 打ち合いでは負けるだろう。


 気分転換にグラトニーの採取でもするか。


 コボルトとケットシーが採取しているのが見えた。

 俺は彼らが採取してないグラトニーを探した。

 いた。


【またこのスライムか。キロ50万円設定だったな】

【実際は匂い消しキロ50円じゃね】

【検索掛けてもこのスライムの素材の記事は出て来ない。匂い消しでもないかもよ。ただのゴミ】

【国で一括お買い上げしてる。官報に載ってたぞ。グラトニーマテリアルってな】

【ほんとだ載ってる】

【マジか。でも底辺おっさんが採ったかどうか分からない】


「麻痺スキル発動」


 うほっ、ザクザク取れるぜ。

 スキルが切れる頃にまた麻痺スキル発動。


 こういうらくちんな奴が良いな。

 グラトニーの採取を終えて、買取所に納品に行ったら草の鑑定結果が出てた。


「エリクサーには劣るが、薬効が認められるのがいくつかあった。名前付けて写真を撮ってメールしたぞ。それと砲弾なミスリルが含まれていた。純度は低いが5グラムは採れる。ひとつ50万円だな」

「おうサンキュウ」


 ええと、ナオール草、1本108万円。

 ゲーネツ草、1本54万円。

 ゲードク草、1本68万円。


【出たご都合主義設定】

【草むしって100万も稼げたら行くよな】

【それにドッジボールの弾が50万。ノーダメージなら美味しい商売だ】

【でもダンジョン立ち入り禁止されているから検証は出来ない】

【それにしても酷いネーミングだ】

【底辺おっさんに、センスを求めたらいけない】

【くんくん、金の匂いがする】

【出たな守銭奴】

【設定に騙されている哀れな奴なんだから、構うな】

【設定ではない本当】


 攻略法が確立されたら、コボルトとケットシーに採取させるのもいいだろう


 アイアンタイガーの攻略法の一端は掴んだ。

 砲弾にミスリルが含まれているなら、撃たせるだけ撃たせてやれば良い。

 耐える戦術だな。

 だが儲かる。


 魔鉄製の盾でもあれば良いか。

 弾切れになったら、接近戦に移行するだろう。

 そうしたらこっちの勝ちだ。


 これで上手くいくはず。


「おっちゃん、魔鉄製の盾をくれ」

「今回はまともな注文だな。それなら出来合いのがある。お得意様だから、負けてひとつ100万だな」


「それと犬に着ける魔鉄製の鎧」

「安心したらこれだよ。犬の鎧を作れなんて注文は初めてだ。やるよ、やれば良いんだろ。次は盾みたいなまともな注文を頼むぜ」


 仕方ないだろ。

 うちのダンジョンは特殊なんだから。

 そんなに無理言ってないよね。

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