第97話 生きてるだけで悪党
うちの庭ダンジョン、3階層のアイアンセンチピードがいた山の頂上にはボス部屋の扉があった。
中に入るといたのは、馬鹿でかいコオロギみたいな虫。
【アイアンモールクリケットだな】
【モールってことは土を掘るの】
【だろな】
虫は前足で土を掘り地面の下に潜った。
「こら、逃げるな。ええとなんだっけ?」
【アイアンオケラね】
「おお、サンクス。鉄オケラって呼ぶことにする」
【ただ、逃げたんじゃないよ。戦略的撤退。そのうち下からズドンと来る】
どう料理しようか。
出てくるところをモグラたたきするのはめんどくさい。
「おら出て来いよ」
俺は地面を連打し始めた。
【出て来るかな】
【振動を感知して出て来るんじゃね】
【蜘蛛でもあるまいし】
土が盛り上がり、鉄オケラが顔をのぞかせた。
飛んで火にいる夏の虫とくらぁ。
連打連打連打。
半透明な液体が飛び散る。
鉄オケラは前足でアダマンパイプに応戦し始めた。
たたき合いなら負けないぜ。
何千回と叩き、鉄オケラの前足がぐちゃぐちゃになった。
オケラは口から岩石のつぶてを吐き出した。
「オラオラオラ」
俺はアダマンパイプで岩石を撃ち返した。
やがて岩石のつぶては止んだ。
ネタ切れか。
俺は頭を連打。
鉄オケラは死んだ。
「たわいないな」
【それできるのおっさんだけだから】
【3階層のボスはあっけなかったな】
ポータル登録して帰るか。
ダンジョンから出ると、新しい顔ぶれがたくさんいた。
「新しいノアフォロのメンバーです。祝福を与えてやって下さい」
「おお、いいぞ。寄生スキル発動」
「体が軽くなった気がする」
新しいメンバーの一人がよろけた。
俺はとっさに支えてやる。
凄い熱だ。
その時、急激に熱が下がってみるみるまに血色が戻る。
【奇跡を見た。死線を超えたな】
【死にそうになったので加護が凄く働いたってことか】
「ありがとうございます」
いきなり礼を言われるほどのことはしてない。
「余命一週間と言われてましたから」
家族が説明する。
そんな重病人を連れて来るなよ。
もっともここに来なきゃ死んでたが。
「腹が減った」
さっきまで病人だった人が空腹を訴えた。
俺はビッグリザードの焼き肉を出してやった。
焼いたのをアイテム鞄の中に常に備蓄してる。
他の新メンバーも食うわ食うわ。
「腹いっぱいになるまで食え」
「一ヶ月ぶりの食事です。今までは点滴で生きながらえてました」
「私もです」
「流動食しか食えませんでした」
みんな食いながら涙を流している。
普通に食事ができるのは幸せなことなんだな。
【いきなり食ったら普通吐くだろ】
【加護が働いているんじゃね】
【俺、もらい泣きしちまったよ】
「食いたかったら思うままに食え。それが幸せなら、寄生されることの対価だ。礼は要らない」
「ダンジョンで働いて、目一杯食って、やりたいことして、長生きしてやります」
【こんなの見たらノアフォロの入会者がますます増えるな】
【まあな】
【治療行為はうたってないけど。そういう事を言うと捕まるんだよな】
「治療じゃないぞ。人間は生きているだけで悪なんだ。長生きして悪を成すんだ」
【またへんなことを】
【おっさんの悪党論か】
【説明してみそ】
「人間は資源を浪費して、環境汚染して、野生動物を死に追いやるのだ。だから悪。長生きは悪。この瞬間も悪の手助けをしている」
【おっさんの価値観では悪は正義なんだよな】
【でも掃除とかしているのな】
「俺の手下が悪事を働くのはまだ我慢できる。しかし、他の人間が悪を働くのは我慢できない。環境汚染やめろ。野生動物を慈しめ」
【他人には善を求めるのな】
【環境汚染はおっさんなら辞めさせられる】
【グラトニーマテリアルで核廃棄物がどんだけ減ったか想像してみろ】
【だな、処分するに厄介なゴミが消える】
【おっさん、グラトニースライムの繁殖やれ】
「グラトニースライムの繁殖なんだけどどうする?」
「やりますとも」
ノアフォロの代表がそう言って胸を叩いた。
「私達もお手伝いします」
新メンバーもかなりやる気だ。
世界中のゴミが消えればいいな。
よし、ゴミ屋敷、抹消テロだ。
ゴミ屋敷に押し掛けて、ゴミをグラトニーに食わせて抹消しよう。
家主を説得できなければ、家主の子供親戚に訴える。
周りからやいのやいの言われれば、頷くしかないさ。
身寄りのない人は、コボルトとケットシーを送り込んで説得する。
ふはは、やってやるぞ。
俺じゃなくて、コボルトとケットシーとノアフォロがな。
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