第96話 刃物男

「くそう、殺してやる」

「お前、誰だ」

「俺は、お前のせいで遺産が貰えなかった者だ」

「自己紹介おつ」


 ギルドの帰りに刃物を持った男に絡まれた。


 手首を優しくトン。

 あれっ折れちゃった。


「ぐぎゃあ」


「カメラちゃんと回ってたよな」


【ばっちり見てた】

【現行犯だな。手首骨折はやり過ぎだけども】

【いや刃物もって立ち塞がるのが悪い】


 警察が来て、色々と聞かれた。

 一応相手が刃物持ってたから、正当防衛にはなるらしい。

 全く、世話を掛けさせやがって。


【アンチ、最近大人しいね】

【何人も有罪になりそうだと言ってたな】

【おっさんに許してもらう条件が寄生だものな】

【寄生してもらえばダンジョンに入れる?】

【そうだけどな】

【元底辺おっさん→いまうんこおっさん、被害者の会ってサイトを見つけたぜ】

【おお、香ばしい匂いが】

【どんな活動してる?】

【おっさんを告訴しようって息巻いている】

【無駄なのに】


「俺も気になったのでみてみた。俺の経歴から、過去の動画まで載っている。被害者の会じゃなくて、ファンクラブ?」


【ファンクラブ、ワラタ】

【でも動画に罵詈雑言のコメント書き込もうぜとなっている】

【度が過ぎると告訴されるのに】

【このサイトの主催者がまずは特攻してみないと】

【人を扇動するなんて奴はろくなもんじゃない】


「それには同意見だ。人を焚きつける奴は良くない」


【サイトに主催者がどんな活動したか説明してくれって書き込んだ】

【返事は?】

【まだない。というか答えないかも】

【チキン野郎だな。俺も書き込んで来る】


「捕まるような言動は慎めよ」


【分かっている。どんな活動を今までやったか聞くだけだから】

【そこで犯罪を暴露して自滅してたりしてな】

【この配信も見ているだろう。自滅はしないと思われ】


 色んな奴がいるものだな。

 俺の敵になりたがる奴もいれば、味方になる奴もいる。

 まあ、そういうものか。

 俺が行き詰っていた時も、周りをよく見れば、味方がたくさんいたのかもな。

 視野が狭くなるってああいうことなのだな。

 今はなんとなく視野が広くなった気がする。

 それも相棒のおかげだ。

 俺は装着してあるカメラを触った。


 俺が家に帰ると弥衣やえが来ていた。


弥衣やえも気をつけろよ。通り魔が出るからな」

「大丈夫。護身用にグラトニーマテリアル製のドリルガン持っているから」


「何、その物騒なの?」

「グラトニーマテリアルが穴を開けるの。グラトニーマテリアルって便利ね。自分は消えないんだから」


「そうだな。グラトニースライムも自分自身は消さないからな。めったなことで使うなよ」

「大丈夫。3センチぐらい針で突いたような穴が一瞬でできるだけだから」


「グラトニーマテリアルって、暗殺とかスパイ活動に向いているな」

「今は国が全部お買い上げしてるんだっけ」


「そうみたい。うちしか採れない物質だから、他には漏れないと思うけど」

「小耳にはさんだんだけど、ダンジョンで働いている人たちは全員を公安がマークしているみたいよ。盗聴器が見つかったって。それも電気駆動でなくて魔力駆動の魔力波発信」


「へぇ、電波じゃないんだろ。よく見つかったな」

「偶然分かったけど、あまりに最先端技術の塊で、恐くなってそのままにしているらしいわ」


「外国のスパイって線はないのか?」

「ないみたいね。外国人の影は見えないから。こっちにはコボルトとケットシーの鼻があるのよ。どんな組織も丸裸」


「突き止めたのか」

「みたいね。日本の組織だと分かってそのままにしてる」


 見張られるのは嫌だな。

 でもグラトニーマテリアルは危険だ。

 仕方ないことなのかも知れない。


 グラトニーマテリアルの対抗策もあるな。

 魔力イレーサーDXを服に掛けておけばいい。

 いっそのこと繊維に練り込んでもらうか。

 武器工房のおっちゃんに相談だな。


「というわけで魔力イレーサーDXから繊維を作って、服を作ってほしい」

「いや、鎧下とか作るけどよ。服の発注は初めてだ」

「作れるだろ」

「そりゃ、糸紡ぎはあるし、機織りもあるし、ミシンもあるし、俺は器用だから作れるけどよ」

「作ってよ。ついでだからミスリルの糸も織り込んで」

「なんで?」

「丈夫そうだから。春、夏、秋、冬の一揃いな。デザインは任せるけど、ダサいの作ってきたらやり直しだから」

「おいおい」

「頼んだから」


 なんだかんだ言ったって作ってくれるさ。

 良いのが出来たら、弥衣やえ達の分も作ってもらおう。

 だが、弥衣やえの採寸はおっちゃんにはやらせない。

 女の人にやってもらうつもりだ。

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