貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太

第1章 ベール編

第1話 盛大にやらかす

 ええとここはどこだ?

 俺は埼京さいきょうすぐる

 34歳独身。

 はっきり言って貧乏人の、へっぽこFランク冒険者。

 だって、いまの俺のライバルが2メートルほどのトカゲだぜ。

 それも倒すのに大苦戦。

 そこまでの道のりに15年も掛かってしまった。

 俺の才能のなさを表していると思う。


 さっきまでうちの庭ダンジョン(Fランクダンジョン)にいたから、そこなのか。

 風景は岩でできた洞窟で、今までいた所と一緒だからそうなのかもな。


【ワープの罠を踏んだな】

【ここどこだ?】

【あれを見ろよ】


 腕に着けられたスマホに配信のコメントが表示される。

 今このライブ配信を見ているのは2人。

 底辺だから少ないのはしょうがない。

 そうか、トラップでワープさせられたのか。


 目の前には高そうなプロテクターを着けた冒険者だろう面々。

 そして、さらに先には水晶でできた巨大なドラゴン。


【おっさん死んだな】

【盛大に弔おうぜ】

【おう拡散しよう】

【だな】


 コメントは慰めにもならない。

 こんなの見ている場合じゃない。


「ポーションがもうないぞ」


 冒険者達の絶望した顔。


「どうする?」

「撤退だ! 撤退するぞ!」


 冒険者達が逃げる。

 ドラゴンが大口を開けて吠えた。

 洞窟に吠え声が大音響で響き渡る。


「ひっ」


 あまり迫力に俺はしゃがみ込んでうずくまった。

 吠え声が更に接近してくる。


【死なばもろともだ】

【おっさん頑張れ】

【死ぬ気でやればなんとかなる】


 コメントを見て勇気づけられた。

 そうだ一当てすれば逃げて行くかも。


 俺の家の庭のモンスターは激弱で、臆病なのか一当てすると逃げて行く。

 追い詰めると反撃に出るんだけど、これが強いのなんのって。

 いいや、違う。

 俺が弱いんだな。

 俺のうちの庭ダンジョンはFランクだからモンスターが強いわけがない。


 俺が弱いのは分かってる。

 だって最弱モンスターのスライムを倒せるようになるまで、1年も掛かったのだから。

 ゴブリンを倒すのに更に2年掛かった。

 プチウルフを倒すのに4年。

 そしてトカゲに8年。

 こんな俺だが、ドラゴンに一撃ぐらいは入れられる。


「やめて来ないで」


 俺はドラゴンの胴体めがけて鉄パイプ(水道管)を振り下ろした。

 爆音と共に粉々になるドラゴン。


「あへっ」


 あれっ、ガラスで出来ていたのかな。

 きっとそうだ。


【一撃で終わってw】

【生き残って嬉しいような、がっかりしたような】

【一生分の運を使い果たしたな】

【これからおっさんは不幸のどん底に落ちるのであった】


 やばい、俺も不幸になる気がする。

 こんなことになるんだったら、今日は休めばよかった。

 でも休むと飯が食えない。


【底辺冒険者爆死と聞いてやってきました。あれっ? 死んでないじゃん】

【同じく】

【でも良い物見れた。ダイヤドラゴンの一撃討伐は凄かった】

【本当にダイヤドラゴンだったのか? 弱いモンスターが化けてたとか】

【分からん。あとで誰かが検証してくれるだろう】

【初期からのファンとして言わせてもらう。おめ】

【偶然に助けられたと思う。ちょうど良いポイントに武器が当たっただけ】

【ああ、石が割れやすいポイントがあるんだっけ】

【だな】


「嘘っ、Sランクのダイヤドラゴンが一撃」

「夢だ。夢を見ているんだ」


 俺はコメントが目に入らなかったし、彼等の声を聴いてはいなかった。

 やべー、やっちゃったかという思いで一杯。。

 素材とるためには粉々にしちゃ不味かったよな。

 謝ったって許してくれないかも。

 10メートルはあるガラスの像。

 一体いくらだろう。

 弁償は貯えで足りるかな。

 そんなことよりまず誠意だ。


「色々と申し訳ありませんでした」


 俺は深々とお辞儀して謝った。


【謝ってて草】

【横入りはルール違反だから】

【でもこの場合救助じゃね】

【救助するには助けが必要か聞くのがマナー】

【やっぱり不幸になるな。多額の慰謝料が降り掛かるに違いない】

【いや、ダイヤドラゴンだろう。状況からして撤退してたよな。撤退って叫んでたし】

【さて、おっさんはアウトかセーフか】

【ワクテカ】


 冒険者達がエイリアンでも見る目で俺を見てきた。

 一体いくらするんだと思っているんだ馬鹿野郎という視線だな。

 そんな目で見ないで欲しい。


「何を謝っているの?」


 ナイスバディのお姉さん(年下だけど)が呆れた様子で聞いてきた。

 いや、だってこの状況は俺が悪いよな。

 誰が見てもそう思う。

 救助が必要か聞いておくべきだった。

 でもあの時は一杯一杯でとてもそんな余裕はなかった。

 謝れば許してもらえるよね。

 でもそんな感じじゃない。

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