第33話 もやもや
先日コボルトとケットシーの何人かが、介護職員初任者研修を終えて試験に合格した。
彼らが勤めるための会社を作った。
俺は会社なんかできないから金だけ出して丸投げだ。
介護事業所というらしいが、書類など印鑑を押すだけだ。
コボルトとケットシー達を虐待とかしなければ、誰かに乗っ取られても別に構わない。
乗っ取られれば、書類を見なくて済む。
実に良いことだ。
仕事をした感想のヒヤリングを行う。
「介護の仕事はどう?」
「簡単な仕事ばかりにゃん」
「この世界ではきつい仕事なんだけどな」
「楽勝にゃん」
異世界の重労働に比べたら天国とか言うんだろうな。
馬鹿な俺でもそれぐらい知っている。
戦国時代だと、貧民の生活は悲惨なものだ。
あんな感じなのだろう。
不満がないのなら、別に良い。
【酷い虐待を見た】
【カメラの前だから楽勝とか言わせたんだな】
【きっと裏では疲れたにゃ、もう勘弁にゃとか言っているに違いない】
【介護はほんと大変なんだって】
【だよな】
【許せんな】
「週休3日だし。月給30万円は払っている」
【介護の仕事は分かるけど。運転免許は?】
【そうだな。車がなきゃ始まらない】
「自転車だ。どうだ優しいだろう。歩きでないだけましだ」
【うわっ、酷いな】
【いや都市部だと渋滞がない分、自転車は使えるぞ】
【でも、暑いだろ】
「それな冷却魔法があるんだそうだ。毛皮だと暑いだろと聞いたらそう言ってた」
【おお、便利】
「ちなみに俺も使えるぞ。男達のたぎりを鎮めて運動させなくすると冷えるんだ」
【比喩表現かな】
【底辺馬鹿の考えは読めない】
【エアコンの電気代は馬鹿にならない。俺も覚えたい】
「じゃあ、まずは鉄鉱石掘りからだな。打撃を極めると一撃必殺系スキルが芽生える。そして寄生プレーすると寄生スキルに目覚める」
【おっさんの成功譚なんか聞いてない】
「そう言うなよ。人生の先輩の言葉は貴重だぞ」
【でた。糞上司が言いそうな言葉】
【そして、その上司は最先端の仕組みについて行けなくなって、老害になる】
【昼間から見てるあなた達に言われても】
【お金が全てよ】
【そうそう、賢くなくっても金持ちならね】
【あのサクラ映像に誤魔化されている奴がいるとは】
【コボルトとケットシーの生活を知っているか。24時間内職して過ごすんだぜ】
「酷いな。俺は悪党だが搾取などという犯罪はしない」
【コボルトとケットシーはモンスター。あいつらをダンジョン閉じ込めてぶち殺せ】
【可愛いと思うぞ。日本語喋れて賢いし】
【モンスターは出ていけ。仲間に拡散したぞ】
ここにもコボルトとケットシーの排斥派が来たか。
ブロックして締め出すこともできるが、そんなのは炎上を激しくするだけだ。
「彼らはモンスターではない。その証拠に魔石が体内にない。獣医師の診断書も公開してる」
【じゃあ、なんで10階から落ちても平気なんだ。凄腕の冒険者じゃあるまいに】
【そうだそうだ。治安を乱す奴らは許せない】
「モンスターではないと何度言ったら!」
俺はカメラを切った。
どうしたら分かってもらえるのか。
俺が善人ムーブしなかった報いか。
SNSの炎上は収まってない。
「コボルトとケットシーのことをもっと知ってもらいましょう」
手始めに彼らの歴史を載せる。
それは迫害の歴史だった。
この世界でも迫害を受ける運命なのか。
反応は。
【嘘を書きやがって】
【哀れみを誘おうとする態度が見え見えなんだよ】
【それがどうした。マジでこっち来んなだよな】
【モンスターが異世界で迫害されたって心は痛まない】
【下がった不動産価格をどうしてくれるんだ】
など、とにかく否定の意見ばっかりだ。
炎上を止める手段が思いつかない。
どうして、姿形で差別するんだ。
頼みの綱は難民認定だな。
日本国民として受け入れられれば、もっと違う手も打てるのに。
2足歩行して、会話が通じれば、それは人間だろう。
俺はそう思う。
俺はカメラのスイッチを入れて訴えることにした。
「いま話題のコボルトとケットシーのことについて話したい。彼らは理性的で、誰にも暴力を振るったりしない。だのに何で差別するんだ」
【モンスターだからだろ】
【人間とモンスターは相容れない。いつか牙をむくに決まっている】
【ほとんど不死身のモンスターがそばにたくさんいるのに、脅威に思わない方が間違っている】
【俺は可愛いと思うがな】
【あんな異形を可愛いと思うとは、狂ってる】
【人食いかも知れないだろう】
【ゴブリンは二足歩行で人食いだぞ。それと一緒だ】
【犬とかもたまに人を襲うけど、彼らは隣人だ】
【犬もダンジョンにぶち込んでしまえ】
コメントがペット擁護派と、モンスター排斥派の争いになっていく。
こんな展開を望んでない。
俺は彼らの人権を認めてほしいだけだ。
彼らも法を犯せば裁かれても仕方ない。
でも何もしてないのに、頭ごなしに決めつけるのはどうかと思う。
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