第34話 酸を採る仕事

「スライムの酸を採る仕事をやりたいわん」


 ヘルパー試験に落ちたコボルトからそう提案された。

 ミスリルの防護服があるから平気だと思う。

 やらせてみるか。


 もともとパーティ分の防護服とスペアは作ってあった。

 かなり金は掛かったが、8人分ほどの防護服がある。

 2着目以降は作り方の試行錯誤がないので、かなり割引してもらったので、8人分で10億はいかなかった。


 彼らは防護服を着こむとアシッドを囲んだ。

 ボコボコに殴ると逃げ出そうとするアシッド。

 そして逃げられないのを悟って酸を吐いた。

 空中にある酸を器用に受け止めるコボルト。


 俺より上手いな。

 これなら任せられる。


【この動きはモンスター】

【モンスターはスライムに溶かされてしまえ】

【可愛いは正義なんだよ】

【引っ込め悪党】

【モンスターを擁護する奴は死刑】


 コメントは相変わらずだ。

 コボルト達が心配だから、しばらく見ているか。


 おっと、コボルトが酸を浴びてしまった。

 だが、防護服で平気なようだ。

 アシッドは酸以外の攻撃がないからな。


【なんで溶けない】

【やっぱりモンスターだ】

【いいぞ。そのうちミスって溶かされてしまえ】

【コボルトとケットシーに愛の手を。底辺おっさん許さん】

【モンスターがいくら死んでも心が痛まない】

【こんなに可愛いのに】

【愛護はペットショップにでも行け。そして、ドッグカフェで散財するがいい】


 なんて言おう。


「彼らは人なんだ。異世界人だけど」


【あれが人。どうみたって化け物だろ】

【だよな。あれはモンスター】

【モンスターでも犬猫は可愛い】

【お前みたいな奴は死ね】

【モンスターに家族を殺された者の恨みを思い知れ】

【モンスターを庇う底辺おっさんも死ね】


 くそっ、配信を辞めようかな。

 でも辞めたところで排斥派の彼らは収まらないだろう。

 不満が溜まれば爆発するだけだ。


【あのスライムの酸は本当に酸なのか】

【アルミの防護服に見えるな】

【やらせか】

【やらせに加担するモンスターは悪】

【モンスターは悪の手先】

【あの悪の巣のマンションの立ち退き運動始めようぜ】

【集団訴訟だ】


 裁判されて立ち退き請求が来たらどうしたら。

 その時は最悪、ダンジョンの中に居場所を作るさ。

 俺は負けない。


すぐる、裁判になったら任せて。良い弁護人が付けば負けないわよ」

「分かってる。正義は俺達にある」


【悪党の詐欺師がなに言っているんだ】

【笑いしか出て来ないな】

【思い知らせてやらないとな】

【思い知らせるって何を?】

【あれだよビラ張り。俺達はモンスターじゃない。暴力は振るわない】


すぐる堪えて、喧嘩はカッとなった奴の負け」


 弥衣やえが俺を止めてくれた。

 反論がエスカレーターすると双方が良くない。

 俺は冷静になった。


「お前らエスカレーターするなよ。もし脅迫したら訴えてやる」


【エスカレーター? ああ、エスカレートか】

【底辺はこれだから】

【このおっさん宝くじで当たって金はあるからな。みんな言質は取られるなよ】

【分かってる】

【○ねなら良いんだろ。○してやるとか】

【そうだな】


 排斥派との戦いは長く続きそうだ。

 俺はカメラを止めた。


「何か考えないと不味いわね」

「うん。でも俺、馬鹿だから、思いつかない」

「DNAを採取して人間と比較するのもいいかもね」

「金なら掛かってもいい。やってくれ」


 DNAって確か野球チームだったような。

 難しいことは分からん。

 弥衣やえがやるなら正しいことなんだろう。


「彼らの能力も調べないと。あの10階からの転落事件がそもそもの発端なのよね」

「あれは俺も不思議だと思ってた」

「落ちた子供も含めて調べて貰いましょう」

「任せる」


 俺は何にも役に立たないな。

 俺に出来ることと言ったらこまめに張り紙を剥がして、それから差し入れの食料を持って行くだけだ。

 真剣に何かを考えないといけない。

 脳みそが沸騰しても、やらなきゃならない。


 犬と猫のどこが怖いというアンケートを秘密裏に弥衣やえに取ってもらう。


 結果は。

 歯が怖い。

 吠え声が怖い。

 暗闇で光る目が怖い。

 爪が怖い。

 噛みつかれそうで怖い。


 などなど。

 吠え声と爪と噛みつくという所はクリアしてるな。

 犬猫より安全だ。

 何で分かってくれないのだろう。


 もっと別のアプローチを見つけないと。

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