第46話 捏造番組

「ボス、先日取材してきたテレビ番組が今日放送されます」

土呂とろなんの取材だ」

「嫌だな。言ったじゃないですか。コボルトとケットシーの老人介護ですよ」


 そう言えばそんな許可も出したな。

 テレビを点ける。


 コボルトとケットシーのヘルパーによる虐待というテロップが流れた。


「お爺ちゃん行くにゃ」

「痛い。痛い」


 映像がぼかしてあって、老人が痛がっている音声が流れた。


土呂とろ、どういうことだ?」

「ボス、何かの間違いです。この撮影にも立ち会いましたが、このシーンはたしかマッサージしてて、痛がったはずです。この後痛かった、ごめんねと謝罪して、いいんだよと言って貰ってました」


「捏造映像じゃないか。苦情の電話を入れてやる。そう言えばこういう時に訴える機関があったな」

「ええ、訴えましょう」


 放送の人権侵害の第三者機関に訴えた。

 だが放送は覆らない。

 コボルトとケットシーのマンションには報道陣が押し寄せた。

 うちにも取材が来たが俺は追い払った。


 反論をSNSで発信する。

 だが、それだけじゃ駄目だ。

 もっと強力な反論をしないと。


土呂とろ、CMだ。CMを作れ」


 金さえ払えばCMの制作と放映を断られることはなかった。

 可愛いコボルトとケットシーの子供が出演するCMだ。

 『私達はモンスターではありません、迫害して悲しくなりませんか』というCMだった。


 土呂とろは有能だな。

 そう言ったら、『広告代理店にお任せですよ、コンペでどのCMが良いか意見を言っただけで終わりました』と返答があった。


 変化が現れた。

 コボルトとケットシーを支援する団体が現れたのだ。


 団体の代表と話す。


「魔女狩りに等しい蛮行は辞めるべきです」

「難しいことは分からないが、彼らの味方をしてやってほしい」

「もちろんです。実はあの番組のスタッフから内部告発をしたいと申し入れがありました。なんでもプロデューサーが暴走してあの番組ができたらしいです」


「そうなんだ。視聴率のためとはいえ許せない」

「テレビCMが良い復讐になったようですよ。あの番組のテレビ局にはCMを流してませんよね」

「当然だ」

「これからもCMしていくつもりですよね」

「金はあるからな。コボルトとケットシーが大金を稼いでいてくれる」


 そうなんだ。

 グラトニーの体採取は美味しい仕事だ。

 一日に1億円いく日も珍しくない。

 CMぐらい軽い軽い。


「CMは辞めない方がいいですよ。継続しないと効果が出ないそうですから」

「へぇ、そうなんだ。詳しいね」

「実は報道番組に携わったことがありまして、色々なことを知ってます」

「それは心強い」


「今回の件は悪質ですから、民事で訴えたほうがよろしいかと」

「分かった。部下にやらせてみるよ」


 団体の代表が帰っていった。

 ふぅ、色々なことが負担だ。

 放り投げたい。

 こういう気分の時はモンスター叩きだな。

 アシッドを探して、叩きまくる。

 酸を採れなくなるので殺しはしない。

 最近、千撃必殺のオンオフができるようになった。


 パッシブスキルとやららしいが、どうやら攻撃と意識しないと、スキルは発動しないようだ。

 当たり前だよな。

 子供の頭を撫でたら、はじけ飛ぶとかなったら、どんな殺人鬼だよという話だ。


 布団を叩いているようなイメージではスキルは発動しない。


【今日のスライムはしぶといな。死んだのがひとつもいない】

【底辺おっさんのこれが実力だよ】

【今回討伐しないのは気まぐれ。たぶんスライムが進化したとかいう設定なんだろ】

【伏線なのか】


 死なないのは加減して叩いているからだ。

 でも、面白いから真実は伝えない。


「みんなCMを見たか」


【もう貯金が尽きるんじゃね】

【宝くじ程度では大したCMは打てない。1本数百万を超えたりするんだぞ】

【でも続いているな。それはどう説明する】

【借金】

【何億も底辺おっさんに貸すかよ】

【コボルトとケットシーが稼いでいるんじゃね。1000人いれば、かなり稼げるだろ】


「その通りだ。コボルトとケットシーの血と汗がCMになっている。だが彼らのためにやっているから、搾取している悪事を働いても、心は痛まない」


【可哀想にな】

【美味い飯も食わせてないんだろ】


「食わせているぞ」


【やらせ映像ね】

【やらせでも美味そうだったな】

【1食ならどうにでもなる】


「信じて貰えないのは悲しいが、真実を知ったらお前らが絶望して死ぬから、これで良いのかもな」


 みんなCMを見ているみたいだ。

 かなり知名度は上がったみたいで嬉しい。

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