第201話 虐め

「おい、ジュース買ってこい」


 ある日の放課後、部室で余野よのが言った。

 俺は手を突き出した。


「何だその手は?」

「ジュース代とお駄賃」


【いじめっ子と、ドラゴンを瞬殺するいじめられっ子の図】

【お駄賃を要求する時点で気づけよ】

【殴ったら手と足を痛める?】

【最強設定ならな】


「分かっているのか。お前パシリ」


【イライラするのはカルシウム不足】

【演技上手いな。イライラが伝わって来る】

【おっさん以外、プロだよな】

【俺も自主制作ドラマ撮りたいぜ】


「おいやめろ」

皮口かわぐち、お前、おかしいぞ」


【不気味さが浸透しているみたいだな】

【ゴブリンの血の絵が不味かったよな】

【気がつかないだろう】

【このドラマ、どこに面白味を見出したら良いのか】

【底辺おっさんの大根演技】


「俺は指扇さしおうぎの親が怖い」

「あんなフカシを真に受けたのか。なあみんな」


【コボルトとケットシーは1万人いるんだったっけ】

【それぐらい。下手な暴力団を超える勢い】

【それは怖いな】

【何気に底辺おっさんは法律を守っている】


「俺はちょっと怖いな」


 見矢原みやはらがビビっている。


「コボルトの500円玉を折り曲げたのは確かにビビったぜ」


喜多本きたもともビビっている。


【500円玉はな。普通の握力じゃ出来ない】

【100円玉でも無理だ】

【5円や10円でも無理だよ】

【1円玉も無理】

【それが普通】


「あんなのは手品だよ。鉛で出来ているんだぜ」


 余野よのは強気だ。


【手品の奴はゴムだな】

【上手く作ってあるからぱっと見は分からない】

【手品かどうかは分かるだろう】

【すり替えのトリックもあるぞ】


「うん、大人に出て来られるとな」


 見矢原みやはらが臆病風を吹かす。


「大人には言わないよ。でも言わなくても伝わるってことがあるから」


【今も俺達に伝わっている】

【そうだな、でもそれは言わない約束】

【ネタバレを早く。驚いた不良のリアクションが見たい】


「こいつ。脅しているのか」

「はい、ジュース代とお駄賃」


【こんないじめられっ子がいたら怖い】

【ぜってぇ、裏があるって思うよな】

【おっさん怖がってないものな】

【ちょっと笑っている】

【おっ、演技上手くなったか。不良たちをちょっと笑っている演技ができている】

【おお、自然だ】

【たまに素人が上手く行くとすぐにこれだ】


「馬鹿にしてるな」


 余野よのが俺に腹パンしてきた。


「痛ぇ。こいつ腹になんか入れてるぞ」

「入れてないよ」


 シャツをめくって腹筋を見せた。


【ナイス筋肉】

【惚れそう】

【CGだから、本当は太鼓腹】


「お前、鍛えているな」

「喧嘩強いのか」

「やべぇ、泣いてから強い奴か」


【泣いてから強い奴いるな。あれってなんなん】

【泣き場の糞力】

【おっさんは泣いてないけどな】

【最強設定だから】


「くそう、こいつは絶対に認めない。こいつはパシリなんだよ」


【必死だな】

【上になられると命令聞かなきゃならないからな】

【最強設定だと太刀打ちでない】

【ドラマだから、分からない設定】


「はい、ジュース代とお駄賃」

余野よの、お前の負けだ。払ってやれよ」

「くそう」

「お駄賃は?」

「こいつ」


【結局、お駄賃も払うのね】

【いや筋肉は腕の太さで気づけよ】

【腕をジロジロみていた奴がいたら気持ち悪い。俺は同僚が空手をやってて、言われるまで気がつかなかったぞ】

【お駄賃払うの草】

【殺しそうな目って、演技上手いな】


 俺はジュースを2本買って部室に帰った。


「ごちになります」


【呷って、煽っているな】

【ダジャレか】

余野よのだっけ、爆発しそう】

【闇討ち希望】

【闇討ちする中学生がいたら怖いわ】


「お前ら、埼京さいきょうをあまり虐めるなよ。こんなのでもパーティメンバーだ」


【リーダーはなんでこんなにビビってる】

【何か感じたのか】

【でも、不気味っていえば不気味だ】

【おっさんが中学生だからな】


「リーダーが言うなら」

「おう」

「だよな」

「度胸が気に入った」


【仲良くなるって筋書きか】

【つまらん】

【でも実際はこんなもん】


 そろそろ、動きがないと配信が飽きられるな。

 探偵パートは進んだけどな。

 こっちはまだぜんぜん進んでない。

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