第217話 ケツバット

 部活だ。

 相変わらず、タバコ臭い。

 最近は電子タバコが流行っているそうだが、こいつらはアナログ人間だな。


「ひっ、後ろにひっそり立つなよ」

「電子タバコなら、吸い殻を捨てに行かなくても良いのに」


【いや、その前に、中学生でタバコは吸うなとか色々とあるだろう】

【きっと俳優は小柄な人を選んで、きっと成人している】

【顔がモザイクだから、そうかもな】


「電子タバコじゃ恰好悪い。そんなことも分からないのかよ」

「ええとタバコは体に悪いよ」


【良く言った】

【これから虐めが始まるのか】

【ワクワク】


「生意気だな。おいみんな埼京さいきょうにヤキ入れようぜ」

「ああ、俺も生意気だと思ってた」

「とりあえずケツバットからだな」

「お前らやめてやれ。こいつは俺達のパーティメンバーだ」


【リーダーが止めるのか】

【リーダーはおっさんにビビっている節があるからな】

【バトルにならないのか。つまらん】


「リーダー、何でだよ?」

「だから、パーティメンバーだ」

「そうは言ってもタバコを辞めろとか言われたら」


「ケツバットしても良いけど」

「ほら、埼京さいきょうもそう言っている」


埼京さいきょう、お前」


【リーダードン引きだな】

【ドエム設定追加か】

【最強なら金属バットぐらい屁でもないはず】


「さあやれ」

「よしやるぞ」


 ケツをバットで叩かれ始めた。

 うん、全然痛くないな。


【底辺おっさん、苦鳴がないぞ】

【煽れ】

【だな】


「ぴゅーぴゅー」


【気の抜けた口笛】

【口で言っているだけじゃん】

【でもケツバットの速度が上がった】


「はぁはぁ。埼京さいきょう、お前、防御ポーションを飲んだな!」

「かもね。ぴゅーぴゅー」

「くそっ腹立つ」

「交代しろ」


【ぜんぜん詰まらないんだけど】

【バシッという音を聞いてても、そりゃつまらんよな】

【ここは股間を一撃だ】


「股間はやめてくれよ」


【底辺おっさんから、弱点を漏らす】

【股間のガードもばっちりなのか】

【自信あるんだろう】


「よし、股間だ」

「チーン!」


【ぜんぜん効いているふうがない】

【つまらん展開だ】

【だよな】


「ぬるいよ。こうやるんだよ」

「がっ!」


【股間に蹴り】

【軽く蹴った感じだよな】

【演技なんだから、軽く行くよな】


「おい、見矢原みやはら、しっかり。ぴょんびょんしろ」

「ううう」


 余野よのが、見矢原みやはらの背中を叩く。


【痛がる演技が上手い】

【プロの俳優だろうから】

【でも、ピョンピョンは笑えた】


「タバコを吸っているからだよ。体がやわになる」


【タバコ関係ないから】

【底辺おっさんには分からないんだろう】

【本気でそう思っていそう】


「へっ、タバコって体が弱くなるんじゃないの。体力がなくなるって」

埼京さいきょう、お前、誰に言っているんだ」

「見えないお友達」

「そういう、話はやめろ。幽霊は嫌いだ」


【カメラを頭に付けてたら、普通配信だろう】

【先生もスルーしているから、アクセサリーって設定だよな】

【金の力で黙らせているんだよ】

【まあ、ドラマだから】


「ケツバットはもう良いの?」

「くそが、この成金野郎! ポーション飲むなんて狡いぞ!」

「勝てば缶軍、あれ完軍だったかな、それとも漢軍」


【言葉じゃ字は伝わらない】


 俺は動画配信に、テロップを書き込んだ。


【どれも違う。官軍だよ。お上が一番強いって奴ね】

【良い歳してるんだから、それぐらい知っとけよ】

【ケツバット回は終りかな】


「これから、タバコ吸ってたら、股間に一撃な」

「くそっ、ポーションさえなければ」

「俺は、お前達が憎くてそうしてるわけじゃない。ダンジョンでは僅かなことが生死を分ける。タバコさえなければ俺の両親も……」

埼京さいきょう、両親はタバコを吸ってて、ダンジョンで命を落としたのか」

「いいや、普通に病死。タバコも吸ってない」

「お前」

「感動話で締めたかったから」


【ばらしてどうするんだよ】

【少しも感動しないぞ】

【底辺おっさんのシナリオ力じゃこんなもん】

【みんながドン引きしている気配が伝わった】

【こんな奴がいたら変人だよな】


「くそっ、言いたい放題、言いやがって」

「ポーションさえなければ」

「股間の一撃は忘れないぞ。この仇はいつか」

「だからやめろと言ったのに」


 タバコは辞めようぜ。

 吸っているのを見ても俺は恰好良いとは思わない。

 タバコを辞めるまで、股間を殴るのを辞めない。

 そう誓った。

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