第218話 マラソン大会

 今日はマラソン大会。

 5キロ走れば終り。

 本気を出すと一瞬で終わる。


 さて、どうするかな。


「では、スタート」


 ピストルが鳴らされた。


 俺は後ろ向きになると、走り始めた。


【後ろ向き走行かよ】

【ドラマだから。実際は乗り物に乗って、カメラを後方に向けただけ】

【後ろ向きだと前が見えないから、ちょくちょく振り返らないと】

【そういう演出は大事】


「探知系スキルがあるからな」


【そういう設定なのね】

【手抜きだな】

【後ろ向きで走られて、抜かされていく中学生は嫌になるだろうな】

【事実だったらな】


埼京さいきょう、ふざけるな! そんな走り方をすると怪我をするぞ!」


 体育教師から怒られた。


「はい」


【やーい、怒られた】

【実際に危ないからね】

【普通に走ると面白くない。何かやってよ】


「じゃんけんチョキ」


【パー】

【グー】

【グー、出遅れた】

【負けるなよ】


「チョコレート」


 俺は目一杯、5回ジャンプした。


【歩幅すご】

【最強だからな】

【次は負けない】


「じゃんけんグー」


【パー】

【底辺おっさんの負けだ】

【勝った俺達は、パイナップルって言いながら進まないといけないのか】

【部屋の中だぞ】


「はい失格」


【くそっ、糞ゲーだ】

【俺はパイナップルって言って進んだぞ】

【つまらん】


「じゃあ、しりとりしながら走ろう。しりとり遊び」


【ビール】


「ルビー」


【敏感肌】


「駄作」


【クリト……

【おっ、ブロックされた模様】

【栗とリス】

【それなら良いのか】


「スイカ」


【蚊】


「カメラ」


【ランランルー】


「ルンバ」


【バール】

【ル攻め、効いてるぞ】


「くそ。瑠璃」


【リール】


「くそっ、出て来ない」


【瑠璃色でも、留守でも何でも良いじゃん】

【底辺おっさんにしては粘ったほう】

【賞金は?】


「賞品を出すか」


 俺は『底辺=100yen』とテロップを出した。


「このパスワードをファントムファンクラブで使えば、記念品を贈ろう。先着100名だからな」


【おっ、ふぁんクラブに登録ページができた。仕事早いな】

【もうゴールだぞ】

【早すぎ】

【スキル使っている奴もいるだろうから、普通だろう】

【ファントム走りならもっと早い】


 俺は賞状と一位の記念品を貰った。

 記念品はボールペンだった。


「くそっ、埼京さいきょうに負けた」


 冒険部の奴らがゴールしたようだ。


「実力を出せば軽い」

「俊敏とスタミナポーションを飲んだんだよな」

「まあな」

「くそっ、成金には勝てないのか」


【まあ、金の力は強いよな】

【札束で叩かれると大抵は負ける】

【ドーピング違反だ】

【中学校のマラソン大会だと、ドーピング検査はしない】


【記念品だけど、名前と住所を入れないといけないのか?】

【記念品如きで、個人情報は入れられないよな】

【記念品はもらう。ファントムグッズなら売れるからな。俺は家族の名前も入れた】


「さて、夕日に向かって走るか」


【まだ夕日じゃないぞ】

【恰好つけたかったんだよな】

【まあ見てようぜ】


 くそっ、こうなったら。

 夕日食堂や夕日レストランで検索。


 あった。

 一番近いのは。


 ファントム仮面をつけて走り始めた。

 あっという間に夕日食堂に着いた。


「どうだ。夕日に向かって走っただろう」


 せっかくだから食べていくか。


「餃子、5人前とビール」

「あんた、仮面で誤魔化そうったってそうはいかないよ。まだ子供だろう」


 くっ、年齢を証明する身分証がない。


【走った後のビールを飲みたいよな。さあ、どうする】

【どうするも身分証を出せば良い】

【持ってないと見た】


「ええと、俺は成人している」

「仮面を取ってみな」


 仮面を取った。


「ほら、子供じゃないか。どこの中学だい?」

「仕方ない。コーラと餃子10人前」

「お金はあるのかい?」


 俺は一万円札を出した。


「どうだ」

「盗んだんじゃないだろうね?」


【不良に間違われるの巻】

【悪そうに見えるのかな】

【おっさん臭がそう思わせるのに違いない】


「今、配信している。ごちゃごちゃ言うなら」

「カメラの電源を切りな!」

「はい」


【カメラ切れた】

【美味そうに食う音だけかよ】

【美味そうに食う音を聞くと俺も餃子が食いたくなる】

【俺も餃子を食うか】


 うん、腹が減って餃子が物凄く食べたかったんだ。

 だから素直に従った。

 餃子の前には些細なことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る