第215話 握手会

 ヤングファントムのファンクラブ主催のイベント。

 握手会。


【握手会か。まるでアイドルだな】

【底辺おっさんの願望だと思われる】

【キモ過ぎる】

【それが底辺おっさん】


「ファンです。応援してます」


 みんな同じことを言うので少し飽きて来た。


「ありがとう」


 だけどヤングファントムは正義の使者。

 悪態などつけない。

 嫌な顔はしているが、仮面で見えないのでセーフだろう。


【いいんじゃね。俺もサクラでも良いからキャーキャー言われたい】

【芸能人は大変だぞ。鋼メンタルでもないとやっていけない】

【その点で底辺おっさんは合格だな】


「もしかして埼京さいきょう君」


 次の握手の相手からそう言われた。

 その相手はクラスメートの熊谷くまがやさん。

 くっ、何でばれた。

 声か、シャンプーの匂いか、一体何だ?


【今回のストーリーはクラスメートに秘密がばれるの巻か】

【そこからラブに発展しないのが底辺おっさん】

【ホラーとかなった凄いけどな】

【サスペンスならありそう】


「何の事かな。何か誤解があるようだ。握手会が終わるまで待っててくれるかな」


 そう言ってとぼけた。


【どこかで聞いたことのある台詞】

【よし、エロ展開だ】

【ヤエちゃんとの二股か】

【ならんだろ】


 ありがとうを言う機械になって、なんでばれたか考えはぐるぐると回るが答えは出ない。

 そして握手会は終わった。


 控室に熊谷くまがやさんを入れて、仮面を外す。


「やっぱり」

「何でばれた」

「私のスキルは気配察知なの。隠れている人とかも探せるけど、気配の感じで会ったことのある人は分かっちゃう」

「スキルかぁ」


【スキルは対策しないと騙せないね】

【親のIDでこのチャンネルを見たと思ったけど、違ったな】

【さあ、底辺おっさんどうする】


「ヤングファントムのレア物のグッズとか欲しいな」


【強請ってきたぞ】

【ここは断固拒否だ】

【グッズぐらい安いものだろう。それぐらいサービスしろよ】


「俺のグッズだぞ」

「ヤングファントムは恰好良いから。知ってるよ、影武者がいるんでしょ。比嘉師ひがし中のヤングファントムは語尾がにゃだものね」

「どのヤングファントムが好きなんだ?」

「災害救助の人かな」


 それは俺だが、それを言ってしまうとややこしくなる。


【やっぱり色っぽい展開にはならなそうだ】

【災害救助というとスタントマンの人だな】

【顔は知らないけどな】


「そう、その人はスタントマンなんだ。悪いけど素顔は明かせない」


 コメントを見てそれをヒントにそう言った。


「やっぱりね。力が違うもの」

「とりあえず、売り残りで悪いけどグッズをやるから、このことは内緒な。俺で出来ることなら何でもするけど」

「何でもしてくれるの?」


【おっ、エロ展開か】

【スタントマンの人が好きなんだろう】

【どうなる。ワクワク】


「できることならな」

比嘉師ひがし中に転校したい。私こう見えて頭が良いのよ。今の学校じゃレベルが合わなくて。私立の中学ならと思って」


 それは好都合だ。

 一緒のクラスにいるとポロっと出てしまいそうだからな。


「お安い御用。授業料も免除するよ」

「わぁ! ありがとう! あなたがスタントマンの人だったらキスしてたところよ」


【キスシーンにならなくて残念だな】

【役者だろ。底辺おっさんが台本に書けば、キスシーンもベッドシーンも思いのままだろう】

【未成年はやばい】

【まあほっぺにキスぐらいだな】


 気配でばれたので対策しないとな。

 気配遮断スキルを持っているケットシーとコボルトはいる。

 寄生スキルで俺にはそれが使える。


「どう? 気配を消してみたんだけど」

「気配がなくなった。暗殺者みたい」


【おっ、ストーカー御用達スキルか】

【悪用希望】

【女湯に突撃だ】

【気配を消せても、目で見えるのなら、ばれるだろう】


 翌日、部活に出ると。


「うおっ! 埼京さいきょういたのか。ぜんぜん気がつかなかった。なんか影が薄いぞ」

「うわっ! 俺もいま気がついた。不気味だな」

「えっ! 殺し屋かよ」

「うひっ! びっくりさせるなよ。今度からお前、斥候な」


【びっくりする演技が上手い】

【顔はモザイクだけど、台詞がの感じが自然だ】

【底辺おっさんは影薄い属性か。主人公にありがちだな】

【影の薄いのが最強ってのは使い古されたネタ】


 うん、なんか変な属性ができたような気がするけどまあ良いか。

 しばらくすればみんなも慣れるさ。

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