第166話 フレンドリーベル

 ラブリーネストの第5階層は砂場。

 砂漠ともいう。

 ただ、パラサイトウルフが砂浴びしている所を見ると砂場という表現がぴったりだ。

 砂漠特有の暑い日差しも、強い風もない。


 俺達より先に確保隊が多数入っていて、パラサイトウルフを追いかけている。


【なごむな】

【ラブリードックが駆け回っている映像だけで癒される】

【あいつら、モンスターだぞ。あれは擬態だ】

【証拠を出せ】

【ファントムのパラサイトウルフ討伐動画を見ろよ】

【あれは扱いを間違えたんだ。ただの甘噛みに大騒ぎしやがって。俺も犬を飼っているが噛まれて血が出たことならある】

【そうだ。撫でるのが下手くそなんだよ】

【そうかな】


 確保隊はパラサイトウルフを見つけると後ろから抱き上げて、台車の上にあるゲージに入れる。

 はふはふ言って尻尾を振っているパラサイトウルフははた目には長閑なんだが。

 俺には殺気があるのが分かっている。


【野良を飼い犬にする瞬間】

【違う。モンスターに寄生される瞬間だ】

【こういう奴がいるから】

【モンスター扱いは許せんな。ラブリードッグに謝れ】


 賛否あるな。

 ファントムの影響力の高さが窺える。


「ボス部屋に行くぞ」

「はい」

「ええ」

「了解にゃ」

「ですわん」


 ボス部屋に入ると、やはり大きいパラサイトウルフがいる。


【虐殺動画を辞めろ】

【けった糞悪いにもほどがある。最悪な配信だ】

【おっさんには期待してる。このダンジョンを潰してくれ】

【そんなことさせるか】

【確保隊のみなさん、絶対に阻止して下さい】


 やはりハチの巣にする。

 パラサイトウルフは弱いな。

 弱いから、隙を見て襲うという戦術を選んだのだな。

 馬鹿な俺にもそれが分かった。


【くそっ、また今日も可愛い友達がひとり逝った】

【ご冥福をお祈りします。おっさんは許さない】


「俺は悪だから、そういう次元を超越してる」


【でた、おっさんの口癖】

【悪党も人でしょ。可愛い動物を手に掛けるのにためらいがないのですか】


「ないね。動物ならともかく。モンスターに対する慈悲はない」


【言っても無駄なのですね】

【署名だ。署名で国会議員を動かすんだ】

【ファントムは総理と面会してたが】

【きっとファントムは汚い手を使ったに違いありません】

【ファントムの悪口は言うな。俺は命を助けられた】


 さて、ポータルに登録して外に出るか。

 ダンジョンの外に出るとコメントが流れてきた。


【朗報だぞ。フレンドリーモンスターを守る会が、フレンドリーベルってのを開発した。これを付けるとラブリードッグがさらに大人しくなる】

【効果あるのか。1万円か。ちょっと高いな】

【俺、注文した】


 うん、胡散臭いな。

 それって効果あるのか。

 俺も気になったので直営店でひとつ確保した。

 見た感じ、普通の鈴だな。


「これからは呪いに近い力が感じられるにゃ」


 家で調べていたら、モチが来てそう言った。


「呪いの道具か。呪具か。じゃあ効果があるのか」

「でも良い感じはしないにゃ」


 第6階層でフレンドリーベルをボスに試した確保隊の馬鹿がやられたとSNSに書き込みがあった。

 だよな。

 ボスは簡単な呪いぐらいではなんともならん。


 確保隊のホームページにはお悔みの言葉が書き込まれていた。

 悪党でも死者を冒涜する気にはならないので、フレンドリーモンスターを守る会のホームページとSNSに欠陥商品じゃないかと書き込んだ。

 速攻で消されて、アク禁を食らった。

 俺は弥衣やえに頼んで、アルバイトを動員。

 フレンドリーベルの悪評を書き込ませた。

 証拠として確保隊のホームページを張ることも忘れない。


 フレンドリーベルは評価されている。

 ラブリードッグが優しい目になったとコメントが書き込まれていた。


 実際に効果があるならそれはそれで良いんだが、なんか嫌な予感がするだよな。

 呪いってのがまず気にくわない。

 実験してみるか。

 俺は、ゴブリンにフレンドリーベルの首輪を取り付けた。


 大人しくなるゴブリン。

 ゴブリン程度なら効果があるようだ。

 家に連れて帰り檻に入れる。

 さてどうなるか。

 しばらく経過観察だな。


 俺と似たようなことを考えた奴はいて、弱いモンスターだが、フレンドリーベルを付けてペットにしたらしい。

 検索したら、SNSやホームページにそういうのがたくさんあった。

 だが、みんなモンスターだと理解しているみたいで、檻で飼っている奴がほとんどだ。

 馬鹿な奴の責任は取れない。


 ファントムの立ち位置としてはフレンドリーベルは推奨できないかな。

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