第165話 八百長

 今日は冒険者バトルの日。

 もう、ランクアップは諦めている。

 なので、面白くしようと心に決めた。


「両者構えて、始め」


 幻影魔法発動。

 抜き手をシュっと突き出した。

 俺の腕は対戦相手の体を突き抜けた。

 ドバっと血の出る映像が魔法で表示され、対戦相手は倒れた。


【おっ、死んだか】

【おっさん殺人犯か】

【試合中なら殺人犯にはならない】


 実際の対戦相手は指で突かれて悶絶して倒れた。


「担架を」


 審判が対戦相手に駆け寄る。

 そして、血が流れて出ないのであれっという顔になった。


「両者、八百長により失格」


【ああ、血がドバっと出たのはサクラか】

【派手に八百長やらないと気が済まないらしい】

【でもたしかに血が飛び散ったよな】

【今は血の一滴すらないだろ】

【ほんとだ】

【どうやったんだ。CGか】

【だろうな】


「くっ、今日もひとり殺してしまった。悪党道は難しいぜ。派手にやると反則負けだ」


【死んでないから】

【うんうん、対戦相手は担架の上で説明してた】

【それより、ラブリードッグ侵略者説を見たんだが】

【捏造だ。可愛い生物が残虐なはずない】

【ラブリードッグの確保隊が、里親を探しているぞ】


 ああ、ついに始まったか。

 最近まではスタンピードで出てきたのを近所の人が飼うパターンだった。

 全国に送られたら、ファントムでもどうにもならない。

 自業自得なのだが。

 ファントムに警告させよう。


「両者、準備は良いか。では始め。ファイ」


 ファントム争奪戦。

 さて今回の必殺技は。

 手を高速でこすり合わせる。

 そしてタッチ。


「スタティックエロクトロニック」


 バチンと大きな音がして相手が気絶した。

 うん、良い技だ。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。ダウンにより、澄水とうすいの勝ち」


 スタティックエロクトロニックに対抗出来た奴は一人もいない。

 決勝戦までサクサクと進めた。


「両者、準備は良いか。では始め。ファイ」

「スタティックエロクトロニック」

「タネはばれている電撃だろう」


 触ったが電気は流れない。

 耐電スーツを着てきたな。

 モンスターには電撃を放つ奴もいるから、こういう装備もある。


「ならば、スタティックエロクトロニッククロウ」


 耐電スーツを爪で引き裂いた。

 そしてタッチ。


「ぐわわわ」


 相手が気絶した。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。ダウンにより、澄水とうすいの勝ち」


 俺は片手を突き上げて歓声に応えた。


「防衛、5.5回おめでとうございます」


 インタビュアーにマイクを向けられた。


「ありがとう」

「今回の技は地味でしたね。音は派手でしたが」

「地味な技も、技なのは変わりない」

「電気を使ったようですが、発電装置や、電池の類はありませんね」

「道具に頼るのは3流だ」


「何か一言お願いします」

「警告する。ラブリードッグは危険なのだ。安易な気持ちで手を出さないでほしい。飼うなら犬にすると良い」

「ファントムさんに拍手を」

「サンキュー」


 確保隊は今日もラブリーネストに入って、パラサイトウルフを捕まえているらしい。

 彼らのホームページには確保したパラサイトウルフの数がカウントされており、着実に増えている。

 子犬の姿のまま変わらないのがそんなにいいかな。

 成犬には成犬の魅力があると思う。

 だが、欲しいという人がいれば、拡散してしまう。


 俺にはこの流れを止める手立てが思い浮かばない。

 ファントムの警告だけでは足りないのだろうな。

 国に法律を作らせるべきだな。


 俺は弁護士を通じて、国会議員に働きかけた。

 会ってくれる人が何人かいた。

 出向いて、パラサイトウルフの危険性を伝えると共に議員と握手した。


 あの俺が助けたわらび権蔵ごんぞう議員も動いてくれて、総理大臣にまで会うことができた。

 テレビ局のカメラも入っている。

 手短にパラサイトウルフの脅威を訴えて、総理と握手する。


 ファントムとして議員に会って分かった。

 人気も力なんだな。

 人気があれば総理も会ってくれる。


 確保隊に造反者でも出れば良いんだが、俺はおっさんになってボスにやられた男の病室を訪ねた。


「金を払うから、パラサイトウルフの危険性を訴えてみないか」

「仲間は裏切れない」

「義理立てに意味があるのか。無くした片腕が返ってくるのか」

「あんた。悪党だな」

「治療費だって馬鹿にならない。切断面を綺麗に縫合するに手術が必要だっただろう。その後に義手を作ったり、訓練したり。金は掛かるぞ」

「悪魔め。やるよ。何でも言ってくれ」


 元確保隊の証言を映像に撮って流した。

 あとできることは思いつかない。

 ここまでやって駄目ならもうそいつのせいだな。

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