第63話 弥衣《やえ》の卒業

 2階層はくさい匂いがより一層増した。

 フィールドは地下都市。

 出てきたのはゴブリンゾンビ。


「マシンボウガン意味ないじゃん」


【ドンマイ】

【ここで要るのは聖水と火魔法だな】


「触りたくないな。ここは酸の水鉄砲攻撃だ」


 弥衣やえもゾンビには触れたくないようだ。

 水鉄砲で攻撃し始めた。

 白煙を上げて溶けるゾンビ。


「もうね、臭いが」


【分かるよ】

【燃やしても匂いは酷いよ。腐った肉を焼いた匂いはきつい】

【光魔法はないのか】

【ゾンビは魔力で動く死体。光では止まらない】


「ここが不人気なのが分かった」


【未制覇ダンジョンなんて、みんなこんな感じ】

【だよな】

【ガソリン掛けて焼くのが一番。ただし煙に要注意】


 俺は解決策を考えるのを放棄した。

 溶け残った魔石をミスリルの手袋をして拾う。


「これはあれね。元を叩くべきよ」


 弥衣やえには考えがあるらしい。


【分かったぞ。ゴブリンネクロマンサーを倒すのだな】

【でもやつらゴブリンゾンビの後ろから操っている】

【そこは貫通矢の出番だ】

【どこにいるのか分かればなー】


 操っている大元を倒す作戦らしい。


「モチちゃんお願い」

「そこにゃ」


 ゴブリンゾンビが一斉に倒れた。

 どうやら当たったようだ。


「凄いなモチどうやったんだ」

「ひげレーダーに反応があったにゃ」


【ひげレーダー。湿気が分かるだけじゃなかったのか】

【猫の第6感は凄いぞ】


「ところでゾンビは捨ててっても良いよね」

「駄目よ。魔石のある場所は分かっているのだから、ナイフで取り出して酸で洗いなさい」


 くそう、損な役回りだ。

 ただ連打最強といえども腐汁飛び散るゾンビは殴りたくない。

 ナイフで魔石を掘り出すぐらい仕方ないかな。


【涙目で魔石掘るおっさん笑える】


「そんなこと言うならやってみろよ」


【俺には無理だな】

【俺の仕事じゃない】

【変わってあげたいけど冒険者じゃないから】

【ヤエちゃん、卒業おめでとう】


 なに、弥衣やえの卒業をすっかり忘れていた。

 卒業祝いを買ってこないと。

 ゾンビの魔石を掘り出している場合じゃない。


「駄目、忘れていた罰」


 くっ、弥衣やえに先を越されて言われてしまった。

 くそっ、何をしたら許してもらえるかな。


「みんなの力を貸してくれ。弥衣やえにどうやって謝ったら良い?」


 俺は弥衣やえに聞かれないようにこそっと言った。


【忘れていたおっさんが悪い。素直に謝れば許してくれるさ】

【花だよ。花。花束をもっていくと良い。花の力は偉大だ】


 そうか花だな。

 世界に一つしかない花を贈ろう。

 ゾンビの魔石の掘り出しを一生懸命やった。

 そして、やっとこさ、ボス部屋に到達。

 ボスはゴブリンネクロマンサーとゴブリンキングゾンビだった。

 貫通矢の敵ではない。

 サクっと終わった。


【ボス、一瞬で終わって草】

【貫通矢の前では、ゴブリンキングゾンビもただの紙の盾】

【臭かったよね。お疲れ】


 速攻で家に帰り、アイアントレントの木を変形させて銀の薔薇を作る。


【銀の薔薇いいね】

【素敵】

【アイアントレントの木肌って不思議な色合いなんだよな。みていて飽きない】

【フィギュア良かったよな】


 そして花束にして、隠し味を一つ。


弥衣やえごめん、卒業式を忘れてた。そしておめでとう」


 俺は花束を差し出した。


【さまになってる】

【プロポーズみたいだ】

【ヤエちゃんはJKからJDに進化した】

【おめでとう】


「わざわざ、作ってくれたの。あれっ、何かきらりと光った」


 弥衣やえが隠し味に気づいたようだ。

 弥衣やえは花のひとつから指輪を摘まみだした。


【おっさんやるなぁ】

【こんな仕掛けをしてたんか】

【これもらったら仕方ないよな】


「嬉しい。はめて下さい」


 俺は弥衣やえの右手を手に取ると、薬指にはめた。


【おっさんらしい。手は間違えたのかな】



「ぶー、手が違う」

「大学を卒業するまではだめだ」


【間違えたわけじゃないだね】

【私も婚約指輪ほしい。ほしいったら。ほしい】


「ふふふ、右手も左手も指のサイズは一緒よ。あとで付け替えようっと」


 ネックレスにしとけばよかったかな。

 花の中に入れるのに指輪がちょうどよかったんだ。

 まあいいか。

 どの指に着けようが個人の自由だ。

 弥衣やえが大学を卒業するまでにはうちの庭ダンジョンも攻略出来ているに違いない。

 そうしたら後はゆっくりするさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る