第132話 冒険者バトル

 今日は初めての冒険者バトル。

 こういうお祭りは好きだ。

 俺もおっさんとファントムの両方で出る。


 さて、ファントム争奪戦はプログラム的には最後だから、まずはおっさんでランクアップ戦だ。


「構えて。始め」


 俺は対戦相手を物凄く手加減して軽く殴った。

 対戦相手はきりもみしながら、吹っ飛んだ。


埼京さいきょうの反則負け」


 えっ、俺の負けなの。

 ちょっと、酷い。


【瞬殺だったな】

【おっさんがな】

【あんなにゆっくり殴ったのでは吹っ飛ばない】


「どういうこと」

「八百長が疑われる。双方失格の反則負けだ。よってランクアップはなし」


【順当だな】

【サクラの演技指導を誤ったな】

【強さを表現したかったと思われる】

【審判の眼は誤魔化せない】

【それにしても酷い演技だ】


 くそっ、まあいいか。

 ランクなんか飾りだ。

 そんな物があっても何も変わらない。


 ただ、お祭りには参加したいから出ただけだ。

 ファントム争奪戦は本気を出しても反則負けにはならないよな。


 さて、ファントムの登場だ。

 会場から少し離れると俺はミスリルの仮面を被った。

 そして全速力。

 炎の足跡を残しながら会場に到着。


「うそっ、ファントムだ」

「走った跡が燃えている」

「あれっ、あっちからも燃える足跡で走ってくる奴がいるぞ」

「でもなんか遅いな」


 偽物は靴に細工しているんだろ。

 炎は出ているが迫力がないのは否めない。

 みんな苦労しているな。


 燃える走りで会場入りするファントムが続出。

 うん、祭りらしくなってきた。

 いいぞもっとやれ。


 ファントム戦の受付があるので、名前を書く。

 ファントムと書こうかと思ったが、注意書きとしてファントムの名前では受け付けませんとある。

 だよな。

 ファントムなんて日本人がいたらみてみたい。

 いるかも知れないが、まあいないだろう。


 俺は平治と書いた。

 名字は何にするかな。

 澄水とうすいとした。

 ミネラルウォーターでその名前があったからだ。

 それを弥衣やえが前に飲んでいた。

 俺は記憶力が悪いけど、それはなぜか覚えていた。


 出番が来るまで、対戦相手を値踏みする。

 うん、強そうなのは、いないな。

 対戦相手を観察していたら、ファントム争奪トーナメントの対戦表が張り出された。


 澄水とうすいの名前を探す。

 第3試合だな。


 一回戦は10面の試合会場で行われる。

 早く終わるのは良いことだ。

 何日も掛かっていたら怠くて仕方ない。


 しばらくして、試合になった。

 俺は対戦相手を見た。

 仮面などは被ってない。

 そういうファントムが半数はいる。

 相手の武器は剣だ。

 もちろん刃引きしてある。


「構えて。始め」


 俺は軽く殴った。

 対戦相手はゴロゴロと転がった。

 うん、殺してないな。

 いい加減手加減にも慣れた。


澄水とうすいの勝ち」


 こんなものだな。

 そして俺は勝ち上がって行って、決勝戦。


「俺こそが本物のファントムだ!」


 対戦相手が吠える。


「それは勝ってから言うものだ」

「お前、偽物だろう。あんなに人が飛ぶわけない。いくら使った?」

「そういうことを思うってことはお前がそうしたかったのだな。下劣な奴め」

「くそう、叩きのめしてやる」


 はいはい。


「構えて。始め」


 俺は炎を引きながら相手の周りをグルグルと回った。

 そして。


「ファイヤータックル」


 対戦相手のそばで急停止、肩で押した。

 相手はくの字になって跳ぶ。

 うん、死んでないよな。


 拍手喝采が起こる。

 俺は手を上げて応じた。


「第1回、ファントム争奪戦は澄水とうすい平治様に決まりました」


 そう言って審判が白銀のギルドカードを差し出した。

 澄水とうすい平治の名前とSランク1級の文字が刻印されている。

 この人物は実在しないのに協会的にはオッケーなのか。


「一言」


 インタビュアーがそう言って俺にマイクを向けてくる。


「俺は誰の挑戦も受ける。ただし正々堂々とだ。闇討ちはお薦めしない。なぜなら手加減が出来ないからだ。次の大会でまた会おう。正義の心が俺よりも勝ればきっと俺に勝てるだろう。諸君、正義の心を燃やすのだ」

「ありがとうございました」


 ネット上では、澄水とうすい平治の名前が取りざたされている。

 ただ住んでいる場所は特定されてない。

 同性同名も何人かいたが、冒険者ではなかった。

 名前は偽名だという声が上がっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る