第110話 バリスタ

 バリスタの試運転だ。

 弥衣やえがバリスタの矢に酸を塗る。


「発射用意」

「照準よしですわん」

「弦オッケーにゃ」

「行きます」


 風切り音を残してバリスタの矢が進んでいく。

 マグネットトレントはなすすべなく矢に貫かれた。


【こんなのありか】

【普通の矢じゃ刺さらないだろうな】

【くそ、手下にも負けるのか。モンスター頑張れ】

【久しぶりの配信だったから期待してたが、おっさんのドヤ顔を見ただけだった】

【えっ、おっさんの顔なんて映ってないけど】

【ヤエチャンネル見ろよ】


「じゃあ、乱獲しようか。1本1000万」


【あんなサクラ買取動画は信じない】

【おっさん様、素敵、抱いて】

【金の話題が出ると必ず湧くな】

【嘘を信じている奴がいるんだな】

【嘘も何もマグネタリウムの記事が載ってただろう】

【おっさんの所のダンジョン素材だとは限らない】

【じゃ、どこのダンジョンだ】

【乱獲を恐れて秘匿されているんだ】


「わっはっは。今日で10億の稼ぎか」


【そんなに稼いでなんで私服はボロボロなんだ】

【金持ちほどケチなのを知らないのか】


「よし、今日は討伐が終わったら、ブランド品を買いに行くぞ」

「私も行く」


【総額1000万円とか着られて、絶望して、自殺者が出ないことを祈る】

【どうせ貸し衣装だろう】

【何も信じないんだな】


 討伐は簡単に終わった。

 マグネットトレントの射程外からバリスタを撃つだけだからな。


「ねぇ、あそこに入りましょ」


 弥衣やえに連れて、銀座の高給そうな服屋入る。

 いきなり、店員に見下された目つきをされた。


【店員に馬鹿にされているぞ】

【ほんとだ。いらっしゃいませもない】

【ここからどういう動画編集を見せるのかな】


「俺の着られるサイズの服を全部包んでくれ。言っとくがセンスの悪いのを入れたら二度とこの店は使わん」

「はひっ」

「ほら、ぼやぼやしないで。お客様、採寸させて頂きます」


 店長みたいな人が飛んできた。

 メジャーで測られて、色々な服を試着させられた。

 そして、300万ぐらいお買い上げ。


【よく、サクラを集められるな】

【俳優の卵なんて腐るほどいる】

【この店知っているぞ。テレビで紹介されてた】


 さて、綺羅々きららはどうしているかな。

 俺は出来上がった仮面を被り、ブランド服に身を包んだ。

 弥衣やえも仮面を被ってる。


 探偵の情報によれば、綺羅々きららはCランクダンジョン、通称獣のごった煮に潜ってる。

 俺達もそのダンジョンに入った。

 カメラは外さない。

 配信はしてないが録画してる。


 さて、綺羅々きららはどこだ。


「次の角を右で、その次を左」


 弥衣やえがナビをする。

 どうして分かるかと言えば、綺羅々きららが配信しているからだ。

 その映像を見れば行先は分かる。


 やがて、綺羅々きららに追いついた。

 綺羅々きららは戦闘を終えて一休みといったところだろう。


「おう」


 俺は手を上げて挨拶した。


「冒険者?」

「まあな俺は平治、Cランクだ。俺達のパーティ名はチアフル。こっち彼女が一重ひとえ

「よろしくね」


 弥衣やえが挨拶。


「ええ、よろしく」


「ソロは危険だぜ」

「慣れているから大丈夫よ」

「そうだ。臨時パーティを組んじゃくれないか。俺は用事があって帰らないといけない。一重ひとえが一人じゃ危ないからな」

「いいわよ。女の子同士なら気兼ねなくできるし」

「ありがと」

「じゃ行くから」


 そう言って俺は離れた。

 弥衣やえのカメラ映像を俺は見てる。


 二人は動き出した。

 弥衣やえは使い慣れたボウガンを構えながら歩く。

 綺羅々きららは大剣を担いでる。


 ビッグボアに出くわした。

 牙を4本あるでかい猪だ。

 弥衣やえがボウガンの矢じりに酸を塗るそして発射。

 矢はビッグボアの前足を貫通して後ろ脚も貫通した。

 ビッグボアは走れなくなったので、綺羅々きららが一撃。

 勝負は着いた。

 ハイタッチする二人。

 楽しそうだな。


 女の子同士のキャハハウフフに割って入るほど厚顔無恥ではないし、忘れ物とか言って俺もパーティに加わる度胸はない。

 討伐は進み、何体かのモンスターを討ち取った。

 俺はスマホで大体の買取金額を調べた。

 200万ほどだ。

 安いな。

 だが、綺羅々きららひとりだと手に余りそうなモンスターもいた。

 危険を冒してまで、討伐しているんだな。

 切羽詰まったものを感じた。


 そんなにしてまで欲しい物があるんだな。

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