第16話 死んで生きる

 うがぁ、メタルゴッドリッチを倒す良い方法が見つからない。

 元々頭脳労働は苦手だ。

 どうするかな。

 やらないという手はない。

 キナコとモチが悲しむだろうし、約束を破るのは男としていただけない。


 弥衣やえに相談してみるかな。


「なあ、弥衣やえ。メタルゴッドリッチ戦だけどどうしたものか」

「私も気になったから二人から情報を引き出したけど、どうにも手段がないわ」

弥衣やえでも駄目か」


 初心に帰るか。

 初心に帰るというと死んでもいいと思ってたあの頃か。

 それでもって、格好良く人のために死にたいと思ってた。


 何だ簡単なことじゃないか。

 死ぬ気でやれば良いんだ。

 なんとかなるだろ。

 死んだら死んだで、それまでだ。

 今日は豪遊しよう。


「おい、豪遊するぞ」

「はい」

「キナコとモチもだ」


「お供しますわん」

「お出かけにゃん。うきうきにゃん」


 ペット同伴で入れるレストランに行った。

 キナコとモチを連れて入ると客の視線が二人に集中した。


「あの写真撮らせてもらっていいですか?」


 犬を連れた女子高生が話し掛けてきた。


「構わないよ」


「チーズ」


 スマホで撮影された。


「私もお願いします」

「私も」

「俺も」


「撮影は食事が終ってからだ。二人を待たせたら可哀想だからな」

「これはペットを飼っている身として恥ずかしい」

「いつまでも待ちます」

「ゆっくり味わってね」



 食事が始まった。

 キナコとモチも器用にナイフとフォークを使っている。

 正直言って俺より上手い。

 俺はレストランで食事したのは親が死ぬ前だったから、いつ以来だろうか。

 20年以上前だな。


 キナコとモチは一心不乱に食べている。

 メタルゴッドリッチに俺が負けると、二人はこんなことも出来なくなるんだよな。

 負ける前提で考えたらいけないのか、でも初心だと格好良く死ぬのが目標だ。

 どうしたらいいか。


 食事を終え、撮影会をして、それからテーマパークに行く。

 世界の建物だとか、忍者のショーをやっている所とか、ドックランとか色々な場所に行った。

 豪遊と言っても一人3万円も使わなかったな。

 貧乏根性が染みついているんだな。

 でも全員楽しそうだったからまあ良いか。


すぐるさん、死ぬつもりですか」


 帰って来て弥衣やえにそう切り出された。


「見破られちまったか。参ったな」

「私のためにも生きて下さい」

「生きるために戦ったらなんか死ぬ気がするんだ」

「助かる作戦を立てましょう」

「死ぬかどうかは別にして作戦は立てるか」


 ええと、まずキナコとモチの一族は鎖につながれて1階層のボス部屋にいる。

 なぜかというとメタルゴッドリッチが定期的に精気を吸うらしい。

 キナコとモチは精気を吸われて美味かったので、ご褒美にダンジョンの中の散策を許された。


「何だ簡単じゃないか。今の俺で倒せないのなら、みんなに力を借りた未来の俺なら倒せる。メタルゴッドリッチをくぐり抜け背後にいる繋がれている一族まで辿り着ければ俺の勝ちだ。そんなに分の悪い賭けじゃない」

「どうするつもりですか」

「サッカーのフェイントはどうかな。右へ行くと見せかけて左に行く。上手く抜けないかな」

すぐるさんのレベルに任せた身体能力でも行けるかどうか」

「そこは俺も考えた。メタルゴッドリッチの趣味は?」


「戦争映画ですわん」

「流血が特にお気に入りだにゃん」

「それとゾンビ映画もですわん」


「どうやってテレビ見ているんだ?」

「魔法でテレビを作ってですわん」


 俺なんか想像がつかないほど頭が良さそうだ。


「スポーツは見るか?」

「見ないですわん」


 サッカーのフェイントで行くしかないな。

 よし決めた。


「決意は固いみたいね」

「ああ、反対はしないよな」

「当日は私も行きます」

「しょうがない。一緒に死んで生還しよう」


「キスしてください。キスしたこともないのに死ねないです」

「分かった」


 俺の部屋でキスするとそれ以上してしまいそうだ。

 キナコとモチが見てる前ならエスカレートしないだろ。

 キスする場合は鼻が当たらないように少し顔を曲げるだったな。


 弥衣やえを抱き寄せキスをした。

 初めてとしては上手く行った。

 ただ歯がカチンとぶつかってしまったが。

 へたくそなのは仕方ない。

 今後も機会があるかは分からないが次は上手くやる。


 ダンジョンGPSアンテナも届いたので、ダンジョンに設置する。

 生きて帰れなきゃ無駄になるが、そんなことを考えても仕方ない。

 死んで生きる。

 さあ出陣だ。

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