第185話 転入

「えー、美並中に新しい仲間が加わりました。どうぞ入って下さい」


 中年のバーコードはげの教師に言われ教室の中に入る。


埼京さいきょうすぐるです」


「あれっ何っ、カメラ頭に付けてるじゃん」

「変な奴」

「キャラ付けかな」

「まさか撮影してないよね」


指扇さしおうぎ弥衣やえです。よろしく」


指扇さしおうぎさん美人っ」

「それにしても5月に二人も転校生」

「二人の関係は?」


「俺と指扇さしおうぎは幼馴染で、兄妹みたいに育ってきた」

埼京さいきょうの親は亡くなっていない。そのことに配慮するように」


 そんなことを言ったら虐められると思うだろうが、俺がいずればれるから最初に言ってほしいと言った。

 弥衣やえの家庭で育ったという設定だ。


 ちらっとスマホのコメントを見る。


【まさかの学校配信】

【モザイクが顔に掛かっているぞ】

【CGではなくて実写なのか】

【リアリティ出すためだろ】


「じゃあ、二人は一番後ろの席ね」

「はい」

「はい」


 弥衣やえと並んで座るのはちょっと恥ずかしい。


【ここからどう展開するのか】

【モンスターが襲撃して討伐動画になるんじゃね】

【それは急展開だな】

【デスゲーム始まったり】

【デスゲーム展開良いな】


 これ、実写なんだよ。

 モザイクはソフトが掛けている。

 操作しているのはコボルトとケットシーのオペレーターだけど。

 とにかく実写を配信してる。

 タイムラグは少しあるけど。


「夢のよう。中学生のすぐると隣の席だなんて」

「どちらかと言えば悪夢だ。俺、ほとんど教科書の内容が分からない」

「大丈夫、教えてあげるから」


【甘酸っぱい青春物のドラマになるのかな】

【ヤエちゃんはモザイクなしだね。際立ってそれが良い】

【これが続くならもう見ない】


 授業が始まって速攻で寝た。

 だって授業聞いてると眠くなる。

 催眠攻撃だって思うぐらいだ。


 気が付いたらみんなタブレットを出していた。

 授業終わり?

 俺もタブレットを出すとテストが送られてきてた。


 分かるかこんなの。

 適当に記号を選ぼう。

 記入式の所はパスだ。

 適当に終わらせた。


 そして寝る。

 先生の小テストの結果発表で起きた。


指扇さしおうぎさん満点です。拍手」


 拍手が起こる。

 そして次々に発表されていき。


埼京さいきょう君、0点です」


 笑いが起こる。

 0点なんか狙っても難しいぞ。

 3択問題が全部外れる確率って、ええと。

 どう計算するんだっけ。

 まあいい、あり得ないほど低い。


【つまらん配信だ】

【机に突っ伏して、板目ばかり写すなよ】

【落ちがつまらん。0点はちょっとリアリティがない。そこは5点とかにしとかないと】


 授業が終わった。


弥衣やえちゃん、勉強できるんだね。友達になりましょう」

「ええ」


 弥衣やえは友達ができているようだ。

 俺の所には誰も来ない。

 さっそくハブられたか。

 中身おっさんだから、話なんか合うこともない。

 話し掛けられない方が良い。


 女子だけ出て行ったと思ったら隣の教室の男子生徒が入ってきて、着替えを始めた。

 どうやら体育らしい。


 女子はバレーボール。

 男子はサッカーだ。


 正直だるい。

 本気出したらシュートでゴールネットが破けるな。

 その前に蹴った瞬間ボールが破裂だ。


【配信、つまらなすぎ】

【せめて女生徒の顔が見れたらな】

【お巡りさんこいつです】

【ここで大活躍か】

【そんなシナリオは駄目だ】


 ボールがパスされるが、わざと追いつかないふりをした。


「おい、埼京さいきょうちゃんとやれ」

「やってる」


 同級生に背中を叩かれた。

 ちょっとむっとした。

 悪戯してやろうかな。


【ここからどう面白くなるんだ】

【どういうコンセプトの配信なんだ?】

【普通の中学生の日常】

【どこに需要があるんだよ】


「ほいっと。ふっ!」


 俺は息を吸って口を尖らせて短く吐いた。

 吐いた息はボールに当たって、ボールの軌道を変える。


「イレギュラーバウンドしたぞ。野球じゃないんだぞ」


 くくっ、慌ててる。


【悪戯、配信ね。コンセプト、了解】

【息で軌道が変わるものかな】

【CGだから】

【風は見えないけど、衣服がはためいているのが見えた】

【芸が細かいな】

【最近のCGは良く出来ているから】

【金を掛けているんだろう】


 俺は何度も息を吐いてボールの軌道を変えた。

 空中で起動が変わるボールを見て同級生は不思議がっている。

 息に気づく奴はいるかな。

 推理力がかなり優れてないと無理だな。

 息でなんて発想はまずしない。

 気づかないだろう。


 あまりやり過ぎるとばれるな。

 でも楽しい。


【ちょっと面白いが。まだまだだな】

【だよな。こんなんじゃ駄目だ】


 ボールの軌道が突然変わるへんなサッカーが終わった。

 そして昼飯だ。


「おい、最弱。お前、パン買ってこい」


 おっ、イベントだな。

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