第61話 終わりと新たな始まり

 いよいよ、総理大臣に署名を手渡す日。

 記者に囲まれ俺は少し緊張した。

 だが恥をかいたって命までは取られない。


「よろしくお願いします」


 署名を総理大臣に手渡した。

 盛大にフラッシュが焚かれる。


「前向きに検討することを約束しよう」


 知ってる、検討しようは何もしてくれないってな。

 ところが数時間後、テレビで緊急記者会見が開かれて、コボルトとケットシーを難民として認めると総理大臣から発表があった。

 なんで?

 総理大臣の後ろが映されて何となく分かった。

 わらび権蔵ごんぞう議員のニコニコした顔が映っている。


 動いたんだな。

 いいや署名を手渡すという場を作った時から決まっていたのかな。


 コボルトとケットシーに保険証や色々なカードが配布された。

 どんな場面で使うのかいまいち分からない。

 保険証だけは分かる。

 マイナンバーカードも分かるけどな。


【コボルトとケットシーの難民認定が通って良かった】

【おめでと】

【普通の難民認定とは違う。動物に通ったような物だぞ】

【それは彼らに失礼だ】

【そうだ、言葉を話せるという時点でもはや人】

【人も動物だけどな】

【おめ】

【おっさんが泣いている】

【ほんとだ】


「だってよう。彼らが人として認められたんだぜ。うれしいじゃないか。これを喜ばずに何を喜べばいい」


【お祝いに何かやらないの?】


 お祝いか。

 花火かな。

 それだけだと寂しいな。


 何が良いだろう。


「同胞を助けてもらいたいにゃ」

「あ、モチ」

「この間助けたケットシーとコボルトがいたにゃ。彼ら以外にもダンジョンに捕らわれているにゃん。助けてほしいにゃ」


 お祝い気分がなくなった。

 まだ苦難にあえぐコボルトとケットシーがいるんだな。

 助けてやらないと。


「すぐにでも他のダンジョンに行きたそうね」

弥衣やえ

「焦っても仕方ないわ。RTAするにも、マップが分かってないと。余裕がないときっと失敗するわ」

「そうだな。俺が倒れたら、コボルトとケットシーは解放されない。今は祝うべきだな。弥衣やえ、難民認定のお祝いは何が良いと思う」

「遊園地を貸し切りましょう。チャンネル登録してくれた人はもれなく招待するのよ。それとお世話になった人ね」

「よし、やろう」


 遊園地なら花火の手配もしてくれるはず。

 1週間後、難民認定祝賀会、及びオフ会が開かれた。

 ちなみに遊園地貸し切りは1000万ちょっとでできた。


浦和うらわ吹上ふきあげ、エリクサーだ。飲め」


 1本しか出なかったのでもう1本は俺が買った。


「ありがとう」

「やっと辛い日々が報われる」


 エリクサーを飲んだ二人は元の若さを取り戻した。


「一万回ローンな。毎月1万だから」

「はい」

「うっ、涙が」


【834年ローンは草】

【オフ会、仕事で行けなかった】

【平日だからしゃあない。俺もだ】

【おっさん、キナコとモチとヤエちゃんにもカメラつけたんだな】

【ライブ配信が4つあってビビった】

【おっさんの顔が見たい人はヤエライブ。高確率でおっさんの方を見てる】

【コボルトとケットシーが見たい方はキナコライブとモチライブ。常にコボルトとケットシーに囲まれている】


 俺は鏡で自分の顔を見た。

 若いままだ。

 元に戻っても良かったんだがな。


 童心に帰って弥衣やえと遊園地を楽しむ。

 そして、やがて夕方になった。

 遊園地の電飾が綺麗だ。


 花火が上がり始める。

 弥衣やえが俺と向き合った。

 そして目を閉じた。

 俺は弥衣やえを抱き寄せ、ごほんごほん。

 むせた。

 総理大臣の時はこれほど緊張しなかった。

 気を取り直して、俺は弥衣やえの唇に自分の唇を重ねた。

 そして花火が終わる。


 俺達は離れた。


「今までありがとう、そしてこれからもよろしく」

「うん、末永くお願いします」


 カメラのスイッチを入れた。

 スマホでコメントを見る。


【キスシーンみたよ】

【むせてたのはちょっと格好悪い。でも初々しい】

【こっちまで赤くなった】

【キーッ、羨ましい】


 えっ、見てたの。

 周りを見ると、モチの笑っている姿が。

 この野郎やりやがったな。


「この悪戯猫、尻尾逆なでの刑にしてやる」

「わー、助けてにゃん。キナコ、笑ってないで助けるにゃん」

「自業自得だわん」


 最後、ちょっと締まらなかったが、こういう日があってもいいだろう。

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