第69話 ダークゾーン

 8階層は、ダークゾーン。

 懐中電灯の光を頼りに進む。

 これでは物陰にいる敵の接近に気づかない。


【今度こそ死んだな】

【ヤエちゃんに被害が出ないことを祈る】

【くそ、ビッチ女などどうでもいい】

【それにしても、おっさん逮捕されないな】

【傷害罪か暴行罪じゃないのか。警察は何してる】


「金と弁護士をと言ったのを忘れたか」


【いや、警察は金積んでも事件をもみ消せたりしない】

【民事と刑事は違う。そして、親告罪もあるけど、傷害罪と暴行罪は違う。事実さえあれば捜査は進むはずだ】

【じゃあなんで逮捕されない?】

【CMだと制止したが聞かなかったので叩いたとなっているな】

【あのままダンジョンにいたら怪我をしていることは明白だから、それを加味して不起訴になったんじゃね】

【おっさんの味方するのか】

【事実を言っている。CMのアニメが本当ならな】


 殴ったことは事実だから、裁判になったら事実を話す。

 だがこいつらに言われる事でもない。


「俺は逃げも隠れもしない。堂々と悪事を働く。子供が心的外傷で家から出られないのなら金で外に出して、心を満たす」


【心的外傷が金で治るかぁ!】

【治らんな】

【でも親は黙るかもな】

【ニートが生まれるわけか。極悪人だな。人ひとりの人生を滅茶苦茶にしておいて、反省の色がない】


「がぁ」


 くそっ、攻撃を受けて、懐中電灯が破壊された。

 受けた方向に鉄パイプを振るうが、レンガの壁が崩れた音がしただけだ。


「撤退だ」

「任せて。ロープがあるから帰り道は分かるわ」


 弥衣やえ、ナイス。


 ロープを掴んでそれを頼りに道を戻る。


「にゃ、端までついたけど、出口がないにゃ」

「やられた。ロープが切られている」

「くっ、みんな固まれ」


 どうにか4人で陣を組んだ。


【暗闇だから状況がわからん。ナレーションしろよ】

【くくくっ、このダンジョンを舐めているからだ。ここを突破した奴はほとんどいない】

【突破した奴はどうやったんだ?】

【教えたらおっさんが助かるだろう】


 今はスマホのライトが頼りだ。


「光魔法を使ったらしいわ。懐中電灯などは壊されるみたい」


 弥衣やえがヒントをくれた。

 スマホで検索掛けたのか。

 短い時間なのにやるな。


【あーあ、お前がヒント言うから、ヤエちゃんが気づいてしまった】

【光魔法使うと術者が最優先で狙われるらしい】

【今度こそ。おっさん死んだな】


「光魔法、ペカーっとな」


【いきなり昼になった。おっさんの光魔法凄いな】

【寄生しているからな。この寄生虫野郎が】

【光魔法って使えない魔法代名詞なのにな】

【コボルトとケットシーで持っている奴はどれぐらい?】


「500人は超えるにゃ」

「何でそんなに多い?」

「無いと不便にゃ。異世界ではみんな持っているにゃ」

「必要は発明の母だったな」


【電気がないのか異世界は?】

【無理言うなよ】


 黒い装束を着たゴブリンが壁の陰にチラッと見えた。

 俺は壁ごとゴブリンを破壊。


「このゴキブリ野郎が。こそこそしやがって」


【その言葉はブーメラン】

【くっ、ここも突破されてしまうのか】


 見えりゃゴブリンなんかわけない。

 簡単にボス部屋に入った。

 ボス部屋は暗闇で何も見えない。

 どういう仕組みか分からないが光を吸収されている。

 完全なダークゾーンだ。


 風を感じろ。

 俺は皮膚の感覚を鋭くした。

 動く物が脳内に見えた。

 手でそれを掴んだ。


 服の感触とゴブリンの匂い。

 俺はそれを鉄パイプで滅多打ちした。

 突然、ダークゾーンが消えた。

 ダークゾーンはボスの能力だったらしい。


【悲報、ボス突破される】

【やはりゴブリン程度では駄目か】


 強敵だった。

 今日の討伐は終りだな。


 ダンジョンを出てメールをチェックすると、俊介しゅんすけ君からメールが来てた。


 【私立学校に転校したよ。学校楽しい】とあった。

 【そうか良かったな】と返事を送る。

 【コボルトとケットシーの学校でも遊んでる。フットサルでシュートを決めたんだ】とすぐに返事が。

 【どうだ世界は楽しいだろ】と送った。

 【うん】と返事が


 弁護士からもメールが来ている。

 俊介しゅんすけ君を虐めてた相手を、心理的外傷ストレスを与えたということで、民事刑事ともに訴えたとあった。

 そう言えば相手の小学生のことを知らないな。

 弁護士に調べてくれと頼むと、すぐにまとめられたものが送られてきた。

 赤羽あかばねおさむ君の両親の仲は悪く喧嘩が絶えない。

 離婚間近とある。

 こいつもストレスを抱えているんだな。


 だが、やったことの責任は取ってもらう。

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